有価証券報告書-第84期(2023/04/01-2024/03/31)
(1)経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は、以下のとおりであります。
①経営成績の状況
当連結会計年度における我が国経済は、経済活動再開に伴う人流の回復、値上げの浸透や円安進行による企業収益の改善、さらにインバウンド消費の増加により、ようやくデフレ脱却への兆しが見え始めました。加えて、米中関係の相剋や地域紛争の激化で我が国の地政学的優位が意識され、資金の回帰姿勢(リパトリエーション)が鮮明となり、これまで停滞していた設備投資も今後高い伸びが見込まれています。
一方、当不動産業界は、金融緩和による下支えもありこれまで順調に拡大を続けてきましたが、年度後半から、緩やか乍ら減速傾向に転じました。賃貸オフィス市場では、大規模開発が進み二次空室のリスクが拡大、分譲住宅市場では、建設費の高騰を背景に分譲価格の上昇が続くなか、需要は引き続き弱含む展開となりました。不動産投資市場におきましても、海外における不動産市況悪化や国内金利の先高観等の影響から、投資家は慎重姿勢を崩さず、総じて先行きが見通しづらい状況が続いています。
こうした事業環境のもと、当社グループでは、かかる内外の変化に目を凝らしつつも、残心をとることを忘れずに「何もしないこと(現状維持)は悪いことをしていると意識する(-卵を割らないでオムレツは作れない-)」を年度スローガンとして、収益性と公益性の両立に取り組み、体幹(-耐力(環境変化対応力)と体力(不況抵抗力)-)の強い会社を目指す、現行中期経営計画(2021~2023年度)の完遂に向け、試行錯誤を重ねながら、各重点施策に果敢に取り組んでまいりました。
この結果、当連結会計年度の営業収益は37,152百万円(前期24,050百万円、前期比54.5%増)、営業利益は7,459百万円(前期5,484百万円、前期比36.0%増)、経常利益は7,351百万円(前期5,175百万円、前期比42.0%増)と各段階利益で過去最高を更新しました。
具体的には、2019年度より開発を進めてきたアパートメントホテルの売却が奏功したほか、リーシング活動の強化により、[稼働率]は過去最高水準の98.8%となり、併せて分譲マンション販売の好調も、営業収益・経常利益をそれぞれ後押ししたことによるものです。
また、親会社株主に帰属する当期純利益は2,769百万円(前期3,488百万円、前期比20.6%減)となりました。保有する投資有価証券の一部を売却したこと等により特別利益2,359百万円を確保しましたが、新たな中期経営計画(2024~2026年度)の策定にあたり、今後の金利上昇に伴うキャップレート(不動産期待利回り)の上昇を見越し、全てのストレス事象(低効率資産等)についてフォワード・ルッキングに抜本処理を行うこととしたため、特別損失を5,361百万円計上したことによるものです。最終減益とはなりましたが、これにより、財務基盤は一層強固になったものと判断しています。なお、詳細は「(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ② 経営成績の分析」に記載しています。



セグメントごとの業績は、次のとおりであります。
当期末における賃貸・管理する建物数は、サブリースビルの解約等もあり、前期末比1棟減の63棟、稼働率は過去最高水準となる98.8%(前期末92.3%)となりました。
当連結会計年度では、「ザ・パークハウス川越タワー/商業部分」(川越市)及び「AHビル」(名古屋市)を取得、一方で「りそな新橋ビル」(港区)を流動化により特別目的会社に譲渡しました。また、2021年2月に大型商業施設が閉店した「川口再開発ビル」(川口市)の新たな活用方法が決まり、「熊谷大栄ビル」(熊谷市)のほか中規模賃貸ビルにおいても空室の解消が進みました。なお、翌連結会計年度期初には、2021年6月から開発を進めてきたグリーンビルディング(板橋区成増二丁目計画)が、共同住宅を併設した銀行店舗として本格稼働を開始、長期の安定収益が見込まれています。
マテリアリティ(重要課題)に向けた取り組みとしては、前連結会計年度の「板橋区成増二丁目計画」でのZEH Oriented認証に続き、「四ツ橋グランスクエア」(大阪市)でZEB Readyを取得しました。さらに、各賃貸オフィスビルではグリーン電力導入や照明のLED化、空調設備の高効率化を継続的に進めているほか、各物流施設に太陽光パネル設置を計画するなど、脱炭素に向けた活動を積極的に展開しました。
このように、当セグメントにおける事業は、順調に進行しておりますが、前連結会計年度に生じた一時的な大口配当の剥落の影響から、営業収益は11,131百万円(前期比1,821百万円減)、営業利益は3,560百万円(前期比2,052百万円減)となりました。
当連結会計年度は、さいたま市、川越市、川口市を中心に精力的に営業活動を行い、新規開設を進めるとともに、既存駐車場での機動的な料金変更(93ヶ所)や駐輪場の自主運営化策(5ヶ所)等により、収益性向上に取り組みました。このほか、システムの高機能化とメンテナンス業務の適正化によるコストの改善、さらにはアイドリングストップ看板(72ヶ所)や、太陽光パネル付き外灯(17ヶ所)設置等のサステナビリティ活動にも注力しました。
この結果、新型コロナウイルス感染症の収束に伴う利用者回復も手伝い、営業収益は3,333百万円(前期比163百万円増)、営業利益は740百万円(前期比105百万円増)と過去最高を更新しました。また、当期末の管理・運営する駐車場数は前期比42ヶ所増の874ヶ所、収容台数は前期比599台増の18,285台となりました。
当連結会計年度は大型物件(「MIMARU東京 池袋」(豊島区)、「ザ・パークハウス川越タワー」(川越市)、「ライオンズ中浦和フォレストフォート」(さいたま市))の売却が牽引、営業収益は17,697百万円(前期比13,128百万円増)、営業利益は4,580百万円(前期比4,224百万円増)と大幅な増収増益となり、営業利益は過去最高を更新しました。
また、かかる起伏の多い業績を平準化させるため、投資用不動産の企画・仕入を進めており、当連結会計年度では、2021年3月から開発を進めてきた賃貸レジデンス「ブリリアンクラス高円寺」(杉並区)及び、「札幌中央レジデンス」(札幌市)・「S-RESIDENCE豊国通」(名古屋市)を当社グループが組成する住宅系私募ファンドに売却しました。さらに事業サイクルの短い戸建分譲プロジェクト(さいたま市桜区西堀他)にも意欲的に取り組みました。
各新築分譲プロジェクトにおいては、「脱炭素への取組」にも強化しており、翌連結会計年度に竣工を予定する「ルネ花小金井ザ・レジデンス」(小平市)ではZEH M Orientedの認証を取得したほか、節水省エネ型設備機器、EV充電設備の設置等を順次進めています。
当セグメントを構成する仲介・買取再販・ソリューション(戦略系・開発系・バリューアド系)の各事業のうち、[開発系]を担う地域ビジネスソリューション事業では、かねてより事業化に取り組んできた「(仮称)坂戸インターチェンジ地区土地区画整理事業」において、坂戸市と「埼玉の持続的成長を支える産業基盤づくり取組み方針」に基づく共同宣言を行い、当該エリアは埼玉県より「産業誘導地区」に選定されました。
[戦略系]のCREソリューション事業では、上場企業を中心とするCRE戦略サポート先との関係強化を図り、併せて候補先へのアプローチを継続的に行ったほか、仲介事業と連携し、ビジネスマッチング契約を締結している地域金融機関からの不動産ニーズの情報収集に努めました。各支店(さいたま、川越、東京)が展開する仲介事業においては、買取再販事業にも力を注ぎ、5件の新規成約がありました。
前連結会計年度より新設した営業ソリューション事業(バリューアド系)では、個人投資家向け不動産商品として開発した練馬区土支田の賃貸レジデンス(「エシカルコート光が丘」)がNealy ZEH Mの認証を取得、当期末では満室で稼働しています。また、当連結会計年度では、販売用不動産の売却(吉川市(2物件)、札幌市(1物件)、府中市内土地開発案件(2物件))が順調に進捗し、同事業の営業収益は前期比大幅増収となる1,965百万円となりました。
この結果、当連結会計年度は、営業収益3,791百万円(前期比1,591百万円増)と大きく伸長しましたが、売却原価が上昇したため営業利益は645百万円(前期比191百万円減)にとどまりました。
当連結会計年度は、価格改定による増収があり、さらに減価償却費の減少が物価高に伴う光熱費・食材費高騰の影響を吸収して、営業収益は1,055百万円(前期比10百万円増)、営業利益は32百万円(前期比84百万円増)と、施設開業以来はじめて黒字に転じました。
一方、断続的に生じる新型コロナウイルス感染症の施設内感染リスクを考慮、引き続き営業活動を自粛した影響から当期末の入居者数は242名(前期比11名減)、利用可能居室の稼働率は81.0%(前期比3.3ポイント減)と入居者数が伸び悩みました。
このような状況を踏まえて、年度後半からはさまざまな新規入居特典キャンペーンや単独世帯(おひとり様)の取込施策を推進、また、ご家族もご入居者も満足する施設を目指して、入居者アンケートをもとに設備投資(更新投資の前倒し・設備メンテナンスの充実)を拡大させています。
同時に、担い手不足が深刻化するなか、今後の人材確保・定着に向け、ICT機器の活用(見守り支援システムとケアコール・スマートフォンとの連動化等)による業務効率化を進めています。[働き方改革]にも前向きに取り組んでおり、当連結会計年度では、埼玉県が主催する「多様な働き方実践企業認定制度」においてゴールド認定を取得しました。
②財政状態の状況
(資産)
当連結会計年度末における総資産は161,287百万円となり、前期末と比べ3,407百万円の増加となりました。このうち、流動資産は55,779百万円となり、前期末と比べ10,602百万円の増加となりました。これは、住宅事業での大型物件売却や賃貸レジデンス2物件の流動化による特別目的会社への譲渡等により「販売用不動産」が1,414百万円減少した一方で、「現金及び預金」が12,355百万円増加したことが主な要因であります。また固定資産は105,508百万円となり、前期末と比べ7,195百万円の減少となりました。これは、その他有価証券の評価益により「投資その他の資産」が3,235百万円増加した一方で、保有する賃貸レジデンスとオフィスビルの2物件をそれぞれ流動化により特別目的会社に譲渡したことに加え、賃貸用ビル等8物件を減損処理したため、「有形固定資産」が10,440百万円減少したことが主な要因であります。
(負債)
当連結会計年度末における負債は107,960百万円となり、前期末と比べ447百万円の減少となりました。これは借入金が減少したことが主な要因であります。なお、有利子負債残高(利息を支払っているすべての負債)は89,058百万円となり、前期末比687百万円の減少となりました。
(純資産)
当連結会計年度末における純資産は53,327百万円となり、前期末と比べ3,854百万円の増加となりました。これは「利益剰余金」が2,919百万円増加したことが主な要因であります。
③キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度における「現金及び現金同等物」(以下「資金」という。)は、営業活動により9,334百万円、投資活動により4,076百万円それぞれ増加し、財務活動により1,123百万円減少したことから、前期末と比べ12,287百万円の増加となり、38,203百万円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における営業活動による資金の増加は9,334百万円(前期比10,808百万円増加)となりました。これは主に、「利息の支払額」811百万円、「法人税等の支払額」1,271百万円等の資金減少があった一方で、「税金等調整前当期純利益」4,349百万円、「減価償却費」1,759百万円、「棚卸資産の減少額」1,644百万円等の資金増加があったことによるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における投資活動による資金の増加は4,076百万円(前期比5,462百万円増加)となりました。これは主に、「有形及び無形固定資産の取得による支出」3,588百万円、「投資有価証券の取得による支出」2,482百万円等の資金減少があった一方で、「有形及び無形固定資産の売却による収入」6,943百万円、「投資有価証券の売却による収入」3,029百万円等の資金増加があったことによるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における財務活動による資金の減少は1,123百万円(前期比772百万円増加)となりました。これは主に、「借入れによる収入」19,300百万円や「コマーシャルペーパーの発行による収入」1,000百万円等の資金増加があった一方で、「借入金の返済による支出」19,987百万円や「コマーシャルペーパーの償還による支出」1,000百万円等の資金減少があったことによるものであります。
④生産、受注および販売の実績
a.生産、受注の実績
当社グループの事業内容は不動産関連事業のため、生産につきまして該当事項はありません。また、受注につきましては、当社グループの営業収益に対して重要な影響を及ぼしていないため、記載を省略しています。
b.販売の実績
当連結会計年度における営業収益をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は以下のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
①経営方針・経営戦略・経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、内外の経済や市場環境のボラティリティ(変動率)と不確実性に対処するため、環境変化に柔軟に適応できる組織を構築する必要があると認識しており、このため、当連結会計年度が最終年度となる中期経営計画(-フェーズⅡ-2021~2023年度)に沿って、サステナビリティ・ビジョンからバックキャストして検討された全社テーマに取り組んでいまいりました。
各施策につきましては概ね計画どおりの進捗となりましたが、足元では、ディスラプティブ(非連続)な経営環境の変化が継続しており、ここで、これまでの計画を「変革・拡張・体験・入替」のキーワードで振り返り、新たに取り組むべき課題の洗い出しを行いました。これら認識された課題は、新たな中期経営計画(-フェーズⅢ-2024~2026年度)における取り組みとして反映されています。概要には「1.経営方針、経営環境および対処すべき課題等、(2)経営環境および対処すべき課題」をご参照ください。
現行中期経営計画の振り返りと新たな課題認識は以下のとおりであります。
また定量的な評価指標として重視する、当連結会計年度末の自己資本比率は33.1%(前期末31.3%)、ネットDEレシオ((有利子負債-現金および預金)÷純資産額)は1.0倍(同1.3倍)、EBITDA有利子負債倍率5.5倍(同8.6倍)となりました。引き続き、財務構成に留意しつつ、サステナビリティに軸足を置いた組織改革を進め、「身の丈に合った成長」を実現してまいります。
②経営成績の分析
(営業収益)
当連結会計年度の営業収益は、主力のビル賃貸事業での安定した賃料収入に加え、住宅事業が大きく伸長したことから前期比13,101百万円増加し、37,152百万円(前期比54.5%増)となりました。各セグメントともに順調な進捗を示しており、概要については「(1)経営成績等の状況の概要 ①経営成績の状況」をご参照ください。
(営業利益・経常利益)
当連結会計年度の営業利益は、販売用不動産の各プロジェクト利益の増加や駐車場事業での継続的な収益拡大により前期比1,974百万円増加し、7,459百万円(前期比36.0%増)となりました。また経常利益は、営業外収益・費用差の好転もあり、前期比2,175百万円増加し、7,351百万円(前期比42.0%増)となりました。
(親会社株主に帰属する当期純利益)
当連結会計年度の親会社株主に帰属する当期純利益は、前期比718百万円減少し、2,769百万円(前期比20.6%減)となりました。保有する投資有価証券の一部を売却したこと等により特別利益2,359百万円を確保しましたが、新たな中期経営計画(2024~2026年度)の策定にあたり、今後の金利上昇に伴うキャップレート(不動産期待利回り)の上昇を見越し、全てのストレス事象(低効率資産等)についてフォワード・ルッキングに抜本処理を行うこととしたため、固定資産売却損2,427百万円と減損損失2,866百万円を計上し、特別損失が5,361百万円まで膨らんだことによるものです。
③財政状態およびキャッシュ・フローの状況の分析
当社グループの当連結会計年度末における財政状態およびキャッシュ・フローは、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ②財政状態の状況 ③キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。
④資本の財源および資金の流動性
当社グループの資金需要のうち主なものは、不動産(棚卸資産を含む)の取得・開発資金等であり、これら資金需要につきましては、営業活動によるキャッシュ・フロー(自己資金)のほか、金融機関からの借入金や社債(コマーシャルペーパーを含む)の発行により調達しています。さらに、複数の金融機関と当座貸越契約を締結することにより、十分な資金の流動性を確保するとともに、資金調達に際しては、これら多様な調達手段から、時機に応じて最適な手段を選択することで、安定的な財源を確保し、あわせて調達コストの低減を図っています。
当連結会計年度では、3,822百万円の設備投資を行ったほか、エクイティ出資を含む投資有価証券2,482百万円を取得しましたが、他方で、保有する投資有価証券や賃貸レジデンス・オフィスビル2物件を流動化により特別目的会社に売却して、資金調達負担を軽減しています。なお、今後につきましては、「成増大栄ビル建替え事業」(板橋区成増)に1,971百万円(2024年6月完了予定)の投資を予定しています。
また、当社グループでは、先行き不透明感が強い経済情勢等を鑑みて、「現金及び預金」を積み増す等の対応を行っており、当連結会計年度末の残高は38,477百万円となっています。
⑤重要な会計上の見積りおよび当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しています。この連結財務諸表の作成にあたり、経営者は、資産、負債、収益及び費用の報告額に不確実性がある場合、作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出するために見積りおよび仮定を用いていますが、これらの見積りおよび仮定に基づく数値は、実際の結果と異なる可能性があります。
連結財務諸表の作成に用いた会計上の見積りおよび仮定のうち、特に重要なものは、「第5 経理の状況 1.連 結財務諸表等 (1)連結財務諸表注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)および(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は、以下のとおりであります。
①経営成績の状況
当連結会計年度における我が国経済は、経済活動再開に伴う人流の回復、値上げの浸透や円安進行による企業収益の改善、さらにインバウンド消費の増加により、ようやくデフレ脱却への兆しが見え始めました。加えて、米中関係の相剋や地域紛争の激化で我が国の地政学的優位が意識され、資金の回帰姿勢(リパトリエーション)が鮮明となり、これまで停滞していた設備投資も今後高い伸びが見込まれています。
一方、当不動産業界は、金融緩和による下支えもありこれまで順調に拡大を続けてきましたが、年度後半から、緩やか乍ら減速傾向に転じました。賃貸オフィス市場では、大規模開発が進み二次空室のリスクが拡大、分譲住宅市場では、建設費の高騰を背景に分譲価格の上昇が続くなか、需要は引き続き弱含む展開となりました。不動産投資市場におきましても、海外における不動産市況悪化や国内金利の先高観等の影響から、投資家は慎重姿勢を崩さず、総じて先行きが見通しづらい状況が続いています。
こうした事業環境のもと、当社グループでは、かかる内外の変化に目を凝らしつつも、残心をとることを忘れずに「何もしないこと(現状維持)は悪いことをしていると意識する(-卵を割らないでオムレツは作れない-)」を年度スローガンとして、収益性と公益性の両立に取り組み、体幹(-耐力(環境変化対応力)と体力(不況抵抗力)-)の強い会社を目指す、現行中期経営計画(2021~2023年度)の完遂に向け、試行錯誤を重ねながら、各重点施策に果敢に取り組んでまいりました。
この結果、当連結会計年度の営業収益は37,152百万円(前期24,050百万円、前期比54.5%増)、営業利益は7,459百万円(前期5,484百万円、前期比36.0%増)、経常利益は7,351百万円(前期5,175百万円、前期比42.0%増)と各段階利益で過去最高を更新しました。
具体的には、2019年度より開発を進めてきたアパートメントホテルの売却が奏功したほか、リーシング活動の強化により、[稼働率]は過去最高水準の98.8%となり、併せて分譲マンション販売の好調も、営業収益・経常利益をそれぞれ後押ししたことによるものです。
また、親会社株主に帰属する当期純利益は2,769百万円(前期3,488百万円、前期比20.6%減)となりました。保有する投資有価証券の一部を売却したこと等により特別利益2,359百万円を確保しましたが、新たな中期経営計画(2024~2026年度)の策定にあたり、今後の金利上昇に伴うキャップレート(不動産期待利回り)の上昇を見越し、全てのストレス事象(低効率資産等)についてフォワード・ルッキングに抜本処理を行うこととしたため、特別損失を5,361百万円計上したことによるものです。最終減益とはなりましたが、これにより、財務基盤は一層強固になったものと判断しています。なお、詳細は「(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ② 経営成績の分析」に記載しています。



セグメントごとの業績は、次のとおりであります。

当連結会計年度では、「ザ・パークハウス川越タワー/商業部分」(川越市)及び「AHビル」(名古屋市)を取得、一方で「りそな新橋ビル」(港区)を流動化により特別目的会社に譲渡しました。また、2021年2月に大型商業施設が閉店した「川口再開発ビル」(川口市)の新たな活用方法が決まり、「熊谷大栄ビル」(熊谷市)のほか中規模賃貸ビルにおいても空室の解消が進みました。なお、翌連結会計年度期初には、2021年6月から開発を進めてきたグリーンビルディング(板橋区成増二丁目計画)が、共同住宅を併設した銀行店舗として本格稼働を開始、長期の安定収益が見込まれています。
マテリアリティ(重要課題)に向けた取り組みとしては、前連結会計年度の「板橋区成増二丁目計画」でのZEH Oriented認証に続き、「四ツ橋グランスクエア」(大阪市)でZEB Readyを取得しました。さらに、各賃貸オフィスビルではグリーン電力導入や照明のLED化、空調設備の高効率化を継続的に進めているほか、各物流施設に太陽光パネル設置を計画するなど、脱炭素に向けた活動を積極的に展開しました。
このように、当セグメントにおける事業は、順調に進行しておりますが、前連結会計年度に生じた一時的な大口配当の剥落の影響から、営業収益は11,131百万円(前期比1,821百万円減)、営業利益は3,560百万円(前期比2,052百万円減)となりました。

この結果、新型コロナウイルス感染症の収束に伴う利用者回復も手伝い、営業収益は3,333百万円(前期比163百万円増)、営業利益は740百万円(前期比105百万円増)と過去最高を更新しました。また、当期末の管理・運営する駐車場数は前期比42ヶ所増の874ヶ所、収容台数は前期比599台増の18,285台となりました。

また、かかる起伏の多い業績を平準化させるため、投資用不動産の企画・仕入を進めており、当連結会計年度では、2021年3月から開発を進めてきた賃貸レジデンス「ブリリアンクラス高円寺」(杉並区)及び、「札幌中央レジデンス」(札幌市)・「S-RESIDENCE豊国通」(名古屋市)を当社グループが組成する住宅系私募ファンドに売却しました。さらに事業サイクルの短い戸建分譲プロジェクト(さいたま市桜区西堀他)にも意欲的に取り組みました。
各新築分譲プロジェクトにおいては、「脱炭素への取組」にも強化しており、翌連結会計年度に竣工を予定する「ルネ花小金井ザ・レジデンス」(小平市)ではZEH M Orientedの認証を取得したほか、節水省エネ型設備機器、EV充電設備の設置等を順次進めています。

[戦略系]のCREソリューション事業では、上場企業を中心とするCRE戦略サポート先との関係強化を図り、併せて候補先へのアプローチを継続的に行ったほか、仲介事業と連携し、ビジネスマッチング契約を締結している地域金融機関からの不動産ニーズの情報収集に努めました。各支店(さいたま、川越、東京)が展開する仲介事業においては、買取再販事業にも力を注ぎ、5件の新規成約がありました。
前連結会計年度より新設した営業ソリューション事業(バリューアド系)では、個人投資家向け不動産商品として開発した練馬区土支田の賃貸レジデンス(「エシカルコート光が丘」)がNealy ZEH Mの認証を取得、当期末では満室で稼働しています。また、当連結会計年度では、販売用不動産の売却(吉川市(2物件)、札幌市(1物件)、府中市内土地開発案件(2物件))が順調に進捗し、同事業の営業収益は前期比大幅増収となる1,965百万円となりました。
この結果、当連結会計年度は、営業収益3,791百万円(前期比1,591百万円増)と大きく伸長しましたが、売却原価が上昇したため営業利益は645百万円(前期比191百万円減)にとどまりました。

一方、断続的に生じる新型コロナウイルス感染症の施設内感染リスクを考慮、引き続き営業活動を自粛した影響から当期末の入居者数は242名(前期比11名減)、利用可能居室の稼働率は81.0%(前期比3.3ポイント減)と入居者数が伸び悩みました。
このような状況を踏まえて、年度後半からはさまざまな新規入居特典キャンペーンや単独世帯(おひとり様)の取込施策を推進、また、ご家族もご入居者も満足する施設を目指して、入居者アンケートをもとに設備投資(更新投資の前倒し・設備メンテナンスの充実)を拡大させています。
同時に、担い手不足が深刻化するなか、今後の人材確保・定着に向け、ICT機器の活用(見守り支援システムとケアコール・スマートフォンとの連動化等)による業務効率化を進めています。[働き方改革]にも前向きに取り組んでおり、当連結会計年度では、埼玉県が主催する「多様な働き方実践企業認定制度」においてゴールド認定を取得しました。
②財政状態の状況
(資産)
当連結会計年度末における総資産は161,287百万円となり、前期末と比べ3,407百万円の増加となりました。このうち、流動資産は55,779百万円となり、前期末と比べ10,602百万円の増加となりました。これは、住宅事業での大型物件売却や賃貸レジデンス2物件の流動化による特別目的会社への譲渡等により「販売用不動産」が1,414百万円減少した一方で、「現金及び預金」が12,355百万円増加したことが主な要因であります。また固定資産は105,508百万円となり、前期末と比べ7,195百万円の減少となりました。これは、その他有価証券の評価益により「投資その他の資産」が3,235百万円増加した一方で、保有する賃貸レジデンスとオフィスビルの2物件をそれぞれ流動化により特別目的会社に譲渡したことに加え、賃貸用ビル等8物件を減損処理したため、「有形固定資産」が10,440百万円減少したことが主な要因であります。
(負債)
当連結会計年度末における負債は107,960百万円となり、前期末と比べ447百万円の減少となりました。これは借入金が減少したことが主な要因であります。なお、有利子負債残高(利息を支払っているすべての負債)は89,058百万円となり、前期末比687百万円の減少となりました。
(純資産)
当連結会計年度末における純資産は53,327百万円となり、前期末と比べ3,854百万円の増加となりました。これは「利益剰余金」が2,919百万円増加したことが主な要因であります。
③キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度における「現金及び現金同等物」(以下「資金」という。)は、営業活動により9,334百万円、投資活動により4,076百万円それぞれ増加し、財務活動により1,123百万円減少したことから、前期末と比べ12,287百万円の増加となり、38,203百万円となりました。
2023年3月期 | 2024年3月期 | 前期比増減 | ||
営業活動によるキャッシュ・フロー | (百万円) | △1,474 | 9,334 | +10,808 |
投資活動によるキャッシュ・フロー | (百万円) | △1,386 | 4,076 | +5,462 |
財務活動によるキャッシュ・フロー | (百万円) | △1,895 | △1,123 | +772 |
現金及び現金同等物の期末残高 | (百万円) | 25,916 | 38,203 | +12,287 |
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における営業活動による資金の増加は9,334百万円(前期比10,808百万円増加)となりました。これは主に、「利息の支払額」811百万円、「法人税等の支払額」1,271百万円等の資金減少があった一方で、「税金等調整前当期純利益」4,349百万円、「減価償却費」1,759百万円、「棚卸資産の減少額」1,644百万円等の資金増加があったことによるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における投資活動による資金の増加は4,076百万円(前期比5,462百万円増加)となりました。これは主に、「有形及び無形固定資産の取得による支出」3,588百万円、「投資有価証券の取得による支出」2,482百万円等の資金減少があった一方で、「有形及び無形固定資産の売却による収入」6,943百万円、「投資有価証券の売却による収入」3,029百万円等の資金増加があったことによるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における財務活動による資金の減少は1,123百万円(前期比772百万円増加)となりました。これは主に、「借入れによる収入」19,300百万円や「コマーシャルペーパーの発行による収入」1,000百万円等の資金増加があった一方で、「借入金の返済による支出」19,987百万円や「コマーシャルペーパーの償還による支出」1,000百万円等の資金減少があったことによるものであります。
④生産、受注および販売の実績
a.生産、受注の実績
当社グループの事業内容は不動産関連事業のため、生産につきまして該当事項はありません。また、受注につきましては、当社グループの営業収益に対して重要な影響を及ぼしていないため、記載を省略しています。
b.販売の実績
当連結会計年度における営業収益をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
2023年3月期 | 2024年3月期 | 前期比増減 | |
ビル賃貸 (百万円) | 12,953 | 11,131 | △14.1% |
駐車場 (百万円) | 3,169 | 3,333 | 5.2% |
住宅 (百万円) | 4,568 | 17,697 | 287.4% |
不動産営業 (百万円) | 2,199 | 3,791 | 72.4% |
有料老人ホーム (百万円) | 1,045 | 1,055 | 1.0% |
報告セグメント計 (百万円) | 23,935 | 37,008 | 54.6% |
その他 (百万円) | 181 | 191 | 5.5% |
合計 (百万円) | 24,116 | 37,199 | 54.2% |
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は以下のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
①経営方針・経営戦略・経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、内外の経済や市場環境のボラティリティ(変動率)と不確実性に対処するため、環境変化に柔軟に適応できる組織を構築する必要があると認識しており、このため、当連結会計年度が最終年度となる中期経営計画(-フェーズⅡ-2021~2023年度)に沿って、サステナビリティ・ビジョンからバックキャストして検討された全社テーマに取り組んでいまいりました。
各施策につきましては概ね計画どおりの進捗となりましたが、足元では、ディスラプティブ(非連続)な経営環境の変化が継続しており、ここで、これまでの計画を「変革・拡張・体験・入替」のキーワードで振り返り、新たに取り組むべき課題の洗い出しを行いました。これら認識された課題は、新たな中期経営計画(-フェーズⅢ-2024~2026年度)における取り組みとして反映されています。概要には「1.経営方針、経営環境および対処すべき課題等、(2)経営環境および対処すべき課題」をご参照ください。
現行中期経営計画の振り返りと新たな課題認識は以下のとおりであります。

②経営成績の分析
(営業収益)
当連結会計年度の営業収益は、主力のビル賃貸事業での安定した賃料収入に加え、住宅事業が大きく伸長したことから前期比13,101百万円増加し、37,152百万円(前期比54.5%増)となりました。各セグメントともに順調な進捗を示しており、概要については「(1)経営成績等の状況の概要 ①経営成績の状況」をご参照ください。
(営業利益・経常利益)
当連結会計年度の営業利益は、販売用不動産の各プロジェクト利益の増加や駐車場事業での継続的な収益拡大により前期比1,974百万円増加し、7,459百万円(前期比36.0%増)となりました。また経常利益は、営業外収益・費用差の好転もあり、前期比2,175百万円増加し、7,351百万円(前期比42.0%増)となりました。
(親会社株主に帰属する当期純利益)
当連結会計年度の親会社株主に帰属する当期純利益は、前期比718百万円減少し、2,769百万円(前期比20.6%減)となりました。保有する投資有価証券の一部を売却したこと等により特別利益2,359百万円を確保しましたが、新たな中期経営計画(2024~2026年度)の策定にあたり、今後の金利上昇に伴うキャップレート(不動産期待利回り)の上昇を見越し、全てのストレス事象(低効率資産等)についてフォワード・ルッキングに抜本処理を行うこととしたため、固定資産売却損2,427百万円と減損損失2,866百万円を計上し、特別損失が5,361百万円まで膨らんだことによるものです。
③財政状態およびキャッシュ・フローの状況の分析
当社グループの当連結会計年度末における財政状態およびキャッシュ・フローは、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ②財政状態の状況 ③キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。
④資本の財源および資金の流動性
当社グループの資金需要のうち主なものは、不動産(棚卸資産を含む)の取得・開発資金等であり、これら資金需要につきましては、営業活動によるキャッシュ・フロー(自己資金)のほか、金融機関からの借入金や社債(コマーシャルペーパーを含む)の発行により調達しています。さらに、複数の金融機関と当座貸越契約を締結することにより、十分な資金の流動性を確保するとともに、資金調達に際しては、これら多様な調達手段から、時機に応じて最適な手段を選択することで、安定的な財源を確保し、あわせて調達コストの低減を図っています。
当連結会計年度では、3,822百万円の設備投資を行ったほか、エクイティ出資を含む投資有価証券2,482百万円を取得しましたが、他方で、保有する投資有価証券や賃貸レジデンス・オフィスビル2物件を流動化により特別目的会社に売却して、資金調達負担を軽減しています。なお、今後につきましては、「成増大栄ビル建替え事業」(板橋区成増)に1,971百万円(2024年6月完了予定)の投資を予定しています。
また、当社グループでは、先行き不透明感が強い経済情勢等を鑑みて、「現金及び預金」を積み増す等の対応を行っており、当連結会計年度末の残高は38,477百万円となっています。
⑤重要な会計上の見積りおよび当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しています。この連結財務諸表の作成にあたり、経営者は、資産、負債、収益及び費用の報告額に不確実性がある場合、作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出するために見積りおよび仮定を用いていますが、これらの見積りおよび仮定に基づく数値は、実際の結果と異なる可能性があります。
連結財務諸表の作成に用いた会計上の見積りおよび仮定のうち、特に重要なものは、「第5 経理の状況 1.連 結財務諸表等 (1)連結財務諸表注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)および(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。