訂正有価証券報告書-第116期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)
経営者の視点による当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要並びにこれらの状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
(1)重要な会計方針及び見積り
当社の連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和51年大蔵省令第28号)第93条の規定により、IFRSに準拠して作成しております。この連結財務諸表の作成にあたり見積りが必要となる事項については、合理的な基準に基づき会計上の見積りを行っております。
重要な会計方針及び見積りについては「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記3 重要な会計方針」及び「同 注記4 重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載のとおりであります。
(2)経営成績の状況
当連結会計年度(以下「当期」)における経済情勢を振り返りますと、欧州では前期後半から引き続き経済低迷が継続し、英国のEU離脱は1月に決定したものの英国とEUでの交渉が続くことから先行きの不透明感は継続しました。米国と中国においては、貿易摩擦を起因とした追加関税の実施などにより経済成長が減速し、製造業を中心に顧客企業の投資意欲が減退しました。日本経済は不透明感が継続する世界経済の影響も受け、輸出や設備投資が伸び悩みましたが、全体としては緩やかな成長を持続しました。また、これらの経済情勢を受けて、前期比で円高傾向が継続しました。2020年に入り、新型コロナウイルス感染症の各地域への拡大に伴い、2月以降、中国や欧米でのロックダウンなどにより経済活動が大きく減速しはじめました。
こうした経営環境の下、当期における当社グループの連結売上高は、9,961億円(前期比6.0%減)となりました。前期比での円高影響は△329億円でした。事業セグメント別では、オフィス事業は、欧州がけん引して回復の兆しを見せていましたが、中国や北米での販売減の影響を受けて減収、プロフェッショナルプリント事業のプロダクションプリントユニットは、北米がけん引して為替を除く実質での増収に転じていましたが、ASEANを除く全地域で販売減となり減収となった一方、成長事業と位置付ける産業印刷では実質増収を維持しました。ヘルスケア事業は中国を除く地域で販売が伸長したものの、中国での減収が影響し、減収となりました。産業用材料・機器事業は、機能材料ユニットでは顧客の在庫調整による影響、IJコンポーネントユニットや計測機器ユニットでは主要顧客が中国に多く、新型コロナウイルス感染症の影響を受けたことなどにより、減収となりました。なお、新型コロナウイルス感染症の連結売上高への影響額は、230億円程度と見積もっております。
中長期での持続的な成長を目指す取組みとして将来の収益の柱にすべく投資を継続している新規分野では、当社の提供するエッジIoTプラットフォームである「Workplace Hub(ワークプレイス ハブ)」の販売地域を当期を通じて9カ国から26カ国に拡大させ、販売活動を強化し顧客数を増加させています。バイオヘルスケア分野では、遺伝子診断の精度を飛躍的に向上させるために世界で初めて商用化した生殖細胞系列遺伝子変異を評価するRNA検査が医療機関から高い評価を受け、遺伝子検査の受託数を大幅に増加させています。また、更なる事業拡大を目指して、検診機関向けのサービスを本格展開するための準備を進めました。これらの進展により、新規分野は大幅な増収となりました。
営業利益は82億円(前期比86.8%減)となりました。前期比での円高影響は△71億円でした。前期に資産流動化による収益202億円を計上していたことや、米中貿易摩擦に起因した追加関税24億円を負担したこと、構造改革費用として74億円を計上したことも影響しました。新型コロナウイルス感染症の営業利益への影響額は110億円程度と見積もっております。
前期からは大幅な減益となりましたが、当期前半におけるオフィス事業、プロフェッショナルプリント事業での収益性低下を改善するために、翌期での年間寄与を見込んで追加した構造改革や製造原価低減などの施策、並びに商品の高付加価値化による販売の競争力強化を狙いとして投入した新製品への切り替えは、計画通りに進捗しました。構造改革につきましては、当期に投じた費用を上回る利益押し上げ効果が翌期に発現すると見込んでおります。
税引前利益は2億円(前期比99.5%減)、親会社の所有者に帰属する当期損失は30億円(前期は親会社の所有者に帰属する当期利益417億円)となりました。
セグメント別の状況は以下のとおりであります。
(注1)売上高は外部顧客への売上高であります。
(注2)売上高は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 連結財務諸表注記 5 事業セグメント」に記載の「その他」の外部顧客への売上高、営業利益は同記載の「その他」と調整額の合計であります。
①オフィス事業
オフィスユニットでは、当第3四半期連結会計期間に新製品効果でカラー機の販売台数が増加に転じましたが、販売活動が最も活発になる2月から3月にかけて、新型コロナウイルス感染症の影響により、特に中国においてA3複合機の販売台数が大きく減少しました。日本や欧州では新型コロナウイルス感染症の影響が出始めましたが、ロックダウン前までの新製品効果などによりカラー機の販売台数は前年並みとなった一方、カラー高速機の主力市場である北米では、期末に向けて2月に新製品を投入したタイミングでのロックダウンが大きく影響し、直販を中心に販売台数が減少しました。これらにより当期のカラー機の販売台数は前期比で減少に転じ、モノクロ機は前期比での減少幅が拡大しました。
ITサービスユニットでは、採算向上のため一部のITサービスのメニューを絞り込み、サービスサポートの標準化・自動化により更なる収益性向上を図っておりましたが、3月に売上が減少し、当期としても減収となりました。
これらの結果、当事業の売上高は5,464億円(前期比7.0%減)、営業利益は米中貿易摩擦による関税19億円や構造改革費用58億円を計上したことも影響し、238億円(同49.4%減)となりました。
②プロフェッショナルプリント事業
プロダクションプリントユニットでは、当第3四半期連結会計期間に品質最適化ユニット「IQ-501」による価値訴求などの施策効果もあり北米での復調が見られ、2月に発売した当社初の高速機「AccurioPress(アキュリオプレス)C14000シリーズ」の受注も順調で大量印刷領域への進出を果たしましたが、新型コロナウイルス感染症の影響による顧客への設置遅延や投資抑制、投資判断の延期により、ASEANを除く全地域で販売台数が減少しました。
産業印刷ユニットでは、インクジェットデジタル印刷機の「AccurioJet(アキュリオジェット)KM-1」の販売は直販で大きく伸長しました。ラベル印刷機とデジタル加飾印刷機の販売は新製品や販売能力増強の効果で伸長し、ターゲットとする市場でトップクラスのシェアを継続しました。
マーケティングサービスユニットでは、高付加価値サービスへのシフトを継続し、米国やアジアがけん引して販売は伸長しましたが、2月後半からの顧客企業のマーケティング活動減退や、オンデマンド印刷を展開するキンコーズでの店舗来客の減少により減収となりました。
これらの結果、当事業の売上高は2,100億円(前期比7.8%減)、営業利益は米中貿易摩擦による関税5億円やマーケティングサービスユニットにおける子会社ののれんの減損損失16億円の計上をしたことも影響し、43億円(同68.5%減)となりました。
③ヘルスケア事業
ヘルスケアユニットでは、DR(デジタルラジオグラフィー)は、日本、欧州、アジアは年間を通じて販売数量を伸ばし、米州は南米の販売が好調に推移したことで、全体として販売数量は前期比で増加しました。超音波診断装置は日本では産科向け新製品の効果と透析・麻酔等の新領域向け販売数量の増加により当期を通じて販売を順調に伸ばし、海外でも欧米、アジアを中心に販売が伸長しました。ヘルスケアユニット全体では、新型コロナウイルス感染症の影響により中国での売上が減少したこともあり、減収となりました。
医療ITユニットでは、北米でPACS(医用画像保管・管理システム)の大型案件を受注し、日本でもPACSの販売が堅調に推移しました。また、アジアにおいてもPACSの販売を開始し、当期後半の厳しい経済環境の中で増収を維持しました。
これらの結果、当事業の売上高は878億円(前期比3.4%減)、営業利益は子会社の拠点売却に係る固定資産評価減5億円を計上したことも影響して、6億円(同73.1%減)となりました。
④産業用材料・機器事業
材料・コンポーネント分野では、機能材料ユニットで高付加価値製品の販売へのシフトが堅調に推移しましたが、当期後半に顧客の一時的な在庫調整などの影響を受け、通期ではやや減収となりました。前期まで仕込んできた新樹脂フィルムは顧客認定が進み販売を開始しており、商品ポートフォリオの転換・顧客層の広がりは計画どおり進捗しています。光学コンポーネントユニットは、プロジェクタ用レンズの販売が当期を通じて堅調に推移しましたが、その他の光学部品の販売が減少し減収となりました。IJコンポーネントユニットは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で販売が急減速し減収となりました。これらにより、材料・コンポーネント分野全体として減収となりました。
産業用光学システム分野では、計測機器ユニットで、物体色向け計測器の需要の停滞傾向が新型コロナウイルス感染症による事業活動の制限によってさらに強まり、光源色向け計測器は前期に見られたディスプレイ製品の多様化に伴う大口需要が当期に減少した影響を当期後半で持ち直しつつあったところ、新型コロナウイルス感染症により事業活動が制限されたり、中国での通関に通常より時間を要した結果、顧客への納品が翌期に持ち越され、ユニット全体で減収となりました。中国や韓国の顧客からの引き合いは継続しており、当期末から商談が再開しつつあります。
これらの結果、当事業の売上高は、1,096億円(前期比6.1%減)、営業利益は192億円(同8.3%減)となりました。
(3)財政状態の状況
当連結会計年度末(以下「当期末」)の資産合計は、前期末比577億円(4.7%)増加し1兆2,767億円となりました。これは主に、IFRS第16号「リース」(以下「IFRS第16号」)適用等による有形固定資産の増加1,023億円、棚卸資産の増加178億円、現金及び現金同等物の減少349億円、営業債権及びその他の債権の減少147億円、のれん及び無形資産の減少83億円、その他の金融資産の減少56億円によるものであります。
負債合計については、前期末比899億円(13.8%)増加し7,430億円となりました。これは主に、IFRS第16号適用によるリース負債の増加1,142億円、社債及び借入金の増加155億円、営業債務及びその他の債務の減少123億円、その他の金融負債の減少94億円、未払法人所得税の減少75億円によるものであります。
資本合計については、前期末比322億円(5.7%)減少し5,337億円となりました。
親会社の所有者に帰属する持分合計は、前期末比319億円(5.7%)減少し5,237億円となりました。これは主に、その他の資本構成要素(主に在外営業活動体の換算差額)の減少224億円、剰余金の配当による減少148億円によるものであります。
これらの結果、1株当たり親会社所有者帰属持分は1,058.29円となり、親会社所有者帰属持分比率は4.6ポイント減少の41.0%となりました。
(4)キャッシュ・フローの状況
(単位:億円)
当期の連結キャッシュ・フローの状況は、営業活動によるキャッシュ・フロー301億円の収入と、投資活動によるキャッシュ・フロー500億円の支出の結果、営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローを合計したフリー・キャッシュ・フローは198億円のマイナスとなりました。
また、財務活動によるキャッシュ・フローは119億円の支出となりました。
そのほかに、現金及び現金同等物に係る為替変動の影響額があり、当期末の現金及び現金同等物の残高は、前期末比349億円減少の899億円となりました。
当期における各キャッシュ・フローの状況は、次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
税引前利益2億円、減価償却費及び償却費771億円等によるキャッシュ・フローの増加と、棚卸資産の増加による減少231億円、営業債務及びその他の債務の減少による減少48億円、法人所得税の支払157億円等によるキャッシュ・フローの減少により、営業活動によるキャッシュ・フローは301億円の収入となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
有形固定資産の取得による支出366億円、無形資産の取得による支出129億円、子会社株式の取得による支出63億円等があり、投資活動によるキャッシュ・フローは500億円の支出となりました。
この結果、営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローを合計したフリー・キャッシュ・フローは198億円のマイナス(前期は156億円のプラス)となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
短期借入金の純増加額116億円、社債の発行及び長期借入309億円等の収入と、社債の償還及び長期借入金の返済208億円、リース負債の返済187億円、配当金の支払148億円等の支出により、財務活動によるキャッシュ・フローは119億円の支出(前期は402億円の支出)となりました。
(5)生産、受注及び販売の実績
①生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注1)金額は、売価換算値で表示しております。
(注2)上記金額には、消費税等は含んでおりません。
(注3)オフィス事業、プロフェッショナルプリント事業につきましては、共通の設備にて生産を行っておりますので、当該生産拠点における生産実績を記載しております。
②受注実績
当社グループは見込み生産を主としておりますので、記載を省略しております。
③販売実績
販売状況については、「(2)経営成績の状況」において各セグメントの業績に関連付けて示しております。
(6)資本の財源及び資金の流動性
①資本政策の基本的な方針
当社は課題提起型デジタルカンパニーを目指してビジネスモデルの変革に取り組み、中長期的な企業価値向上に向けた持続的な成長を支えるための最適な資本政策を実施していきます。
特にキャッシュ・フロー創出力の強化と資本効率(ROE・ROIC)の向上を重視し、その実現に向けて、「成長投資の実施」「株主還元の充実」及び「財務基盤の強化」について、これらの最適バランスを目指した資本政策を推進し、資金効率の向上と資本コストを意識した最適な資本・負債構成を目指します。
1)資本効率の向上
資本コストを重視し、資本コストを安定的に上回るROE・ROICの向上を目指します。このために、KM-ROIC及び投下資本収益(注)を経営管理指標とし、事業ポートフォリオマネージメントの強化を通じて企業価値の最大化を図ります。
2)株主還元の充実
連結業績や成長分野への戦略投資の推進等を総合的に勘案しつつ、積極的に利益還元することを基本とし、配当額の向上と機動的な自己株式の取得を通じて、株主還元の充実に努めます。
3)財務健全性の担保
財務ガバナンスの強化、財務リスクの最小化、資金効率の向上、株主資本の充実により積極的な成長投資を支える財務基盤の強化を図ります。
(注)KM-ROIC:投下資本収益率。事業利益を投下資本で除した比率。事業活動のために投下した資本を使って、どれだけ事業利益を生み出したかを示す指標。
投下資本収益:事業利益から投下資本コストを控除した金額。どれだけ投下資本コストを上回る価値を創造したかを示す指標。
投下資本収益の最大化によりROE及びROICの向上を図ります。
当社グループの資本の財源及び資金の流動性については、以下のとおりであります。
②資金需要
当社グループの主な資金需要は、製造費用、販売費及び一般管理費等の営業費用並びに当社グループの設備新設、改修等に係る投資や、将来の成長及び企業価値向上を目的としたM&Aによる投資であります。
③資金の源泉
当社グループの資金の主な源泉は、営業活動によるキャッシュ・フロー、金融機関からの借入や社債の発行による資金調達であります。
④資金調達についての方針
当社グループは、円滑な事業活動に必要な流動性の確保と財務の健全性・安定性維持を資金調達の基本方針とし、主に金融機関からの短期借入及び長期借入や社債の発行により資金調達を行っております。長期資金の調達に際しては、償還や返済の時期を分散することにより借り換えリスクの低減を図っております。また、資金調達は主に当社が行っており、必要資金を関係会社に主にキャッシュ・マネジメント・システムを通じて供給することで資金調達の一元化や効率化を図っております。
⑤流動性
当社グループは、従来から営業活動により多額のキャッシュ・フローを得ており、今後も引き続き重要な資金源になると見込んでおります。また、複数の金融機関との間で2024年9月末を期限とする1,000億円のコミットメントライン契約を締結し、効率的な資金の調達を行っている他、アンコミットメントベースの融資枠、国内社債発行登録枠を有しています。当社の既発行社債の債券格付、発行登録予備格付はともに株式会社格付投資情報センター(R&I)及び株式会社日本格付研究所(JCR)からA格を取得しています。
なお、新型コロナウイルス感染拡大に伴う世界的な経済活動の停滞が当社の営業キャッシュ・フローに悪影響を与えるリスクに備え更なる手元流動性の確保のため、2020年4月にアンコミットメントベースの融資枠の一部を利用し約850億円の短期借入を実行したことに加え、2020年5月に複数の金融機関との間で2021年5月21日を期限とする2,000億円のコミットメントライン契約を締結しました。これにより、アンコミットメントベースの融資枠を利用した借入による資金約850億円を含む手元現金及び現金同等物の残高、2つのコミットメントラインの未使用残高計3,000億円、アンコミットメントベースの融資枠の未使用残高の合計は2020年5月末現在で約5,000億円となり、当社グループの6ヶ月分の売上規模に相当する十分な手元流動性を確保していることになります。
また、当社グループ内の資金の効率化については、日本・北米・欧州・アジアパシフィックの各統括拠点においてキャッシュ・マネジメント・システムを導入しており、各地域の余剰資金を当社へ集中し一元的に管理を行うことにより、資金効率の向上と金融費用の極小化及びガバナンスの向上を図っております。なお、一時的な余剰資金は、安全性が極めて高い金融資産で運用しております。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
(1)重要な会計方針及び見積り
当社の連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和51年大蔵省令第28号)第93条の規定により、IFRSに準拠して作成しております。この連結財務諸表の作成にあたり見積りが必要となる事項については、合理的な基準に基づき会計上の見積りを行っております。
重要な会計方針及び見積りについては「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記3 重要な会計方針」及び「同 注記4 重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載のとおりであります。
(2)経営成績の状況
当連結会計年度(以下「当期」)における経済情勢を振り返りますと、欧州では前期後半から引き続き経済低迷が継続し、英国のEU離脱は1月に決定したものの英国とEUでの交渉が続くことから先行きの不透明感は継続しました。米国と中国においては、貿易摩擦を起因とした追加関税の実施などにより経済成長が減速し、製造業を中心に顧客企業の投資意欲が減退しました。日本経済は不透明感が継続する世界経済の影響も受け、輸出や設備投資が伸び悩みましたが、全体としては緩やかな成長を持続しました。また、これらの経済情勢を受けて、前期比で円高傾向が継続しました。2020年に入り、新型コロナウイルス感染症の各地域への拡大に伴い、2月以降、中国や欧米でのロックダウンなどにより経済活動が大きく減速しはじめました。
こうした経営環境の下、当期における当社グループの連結売上高は、9,961億円(前期比6.0%減)となりました。前期比での円高影響は△329億円でした。事業セグメント別では、オフィス事業は、欧州がけん引して回復の兆しを見せていましたが、中国や北米での販売減の影響を受けて減収、プロフェッショナルプリント事業のプロダクションプリントユニットは、北米がけん引して為替を除く実質での増収に転じていましたが、ASEANを除く全地域で販売減となり減収となった一方、成長事業と位置付ける産業印刷では実質増収を維持しました。ヘルスケア事業は中国を除く地域で販売が伸長したものの、中国での減収が影響し、減収となりました。産業用材料・機器事業は、機能材料ユニットでは顧客の在庫調整による影響、IJコンポーネントユニットや計測機器ユニットでは主要顧客が中国に多く、新型コロナウイルス感染症の影響を受けたことなどにより、減収となりました。なお、新型コロナウイルス感染症の連結売上高への影響額は、230億円程度と見積もっております。
中長期での持続的な成長を目指す取組みとして将来の収益の柱にすべく投資を継続している新規分野では、当社の提供するエッジIoTプラットフォームである「Workplace Hub(ワークプレイス ハブ)」の販売地域を当期を通じて9カ国から26カ国に拡大させ、販売活動を強化し顧客数を増加させています。バイオヘルスケア分野では、遺伝子診断の精度を飛躍的に向上させるために世界で初めて商用化した生殖細胞系列遺伝子変異を評価するRNA検査が医療機関から高い評価を受け、遺伝子検査の受託数を大幅に増加させています。また、更なる事業拡大を目指して、検診機関向けのサービスを本格展開するための準備を進めました。これらの進展により、新規分野は大幅な増収となりました。
営業利益は82億円(前期比86.8%減)となりました。前期比での円高影響は△71億円でした。前期に資産流動化による収益202億円を計上していたことや、米中貿易摩擦に起因した追加関税24億円を負担したこと、構造改革費用として74億円を計上したことも影響しました。新型コロナウイルス感染症の営業利益への影響額は110億円程度と見積もっております。
前期からは大幅な減益となりましたが、当期前半におけるオフィス事業、プロフェッショナルプリント事業での収益性低下を改善するために、翌期での年間寄与を見込んで追加した構造改革や製造原価低減などの施策、並びに商品の高付加価値化による販売の競争力強化を狙いとして投入した新製品への切り替えは、計画通りに進捗しました。構造改革につきましては、当期に投じた費用を上回る利益押し上げ効果が翌期に発現すると見込んでおります。
税引前利益は2億円(前期比99.5%減)、親会社の所有者に帰属する当期損失は30億円(前期は親会社の所有者に帰属する当期利益417億円)となりました。
セグメント別の状況は以下のとおりであります。
前連結会計年度 | 当連結会計年度 | 増減 | |||
(自 2018.4.1 | (自 2019.4.1 | ||||
至 2019.3.31) | 至 2020.3.31) | ||||
億円 | 億円 | 億円 | % | ||
オフィス事業 | 売上高 | 5,878 | 5,464 | △414 | △7.0 |
営業利益 | 471 | 238 | △233 | △49.4 | |
プロフェッショナル | 売上高 | 2,277 | 2,100 | △176 | △7.8 |
プリント事業 | 営業利益 | 138 | 43 | △94 | △68.5 |
ヘルスケア事業 | 売上高 | 909 | 878 | △30 | △3.4 |
営業利益 | 23 | 6 | △17 | △73.1 | |
産業用材料・機器事業 | 売上高 | 1,167 | 1,096 | △70 | △6.1 |
営業利益 | 209 | 192 | △17 | △8.3 | |
小計 | 売上高 | 10,232 | 9,540 | △692 | △6.8 |
営業利益 | 843 | 480 | △362 | △43.0 | |
「その他」及び調整額 | 売上高 | 358 | 420 | 62 | 17.3 |
(注2) | 営業利益 | △219 | △398 | △179 | - |
連結損益計算書計上額 | 売上高 | 10,591 | 9,961 | △630 | △6.0 |
営業利益 | 624 | 82 | △542 | △86.8 |
(注1)売上高は外部顧客への売上高であります。
(注2)売上高は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 連結財務諸表注記 5 事業セグメント」に記載の「その他」の外部顧客への売上高、営業利益は同記載の「その他」と調整額の合計であります。
①オフィス事業

ITサービスユニットでは、採算向上のため一部のITサービスのメニューを絞り込み、サービスサポートの標準化・自動化により更なる収益性向上を図っておりましたが、3月に売上が減少し、当期としても減収となりました。
これらの結果、当事業の売上高は5,464億円(前期比7.0%減)、営業利益は米中貿易摩擦による関税19億円や構造改革費用58億円を計上したことも影響し、238億円(同49.4%減)となりました。
②プロフェッショナルプリント事業

産業印刷ユニットでは、インクジェットデジタル印刷機の「AccurioJet(アキュリオジェット)KM-1」の販売は直販で大きく伸長しました。ラベル印刷機とデジタル加飾印刷機の販売は新製品や販売能力増強の効果で伸長し、ターゲットとする市場でトップクラスのシェアを継続しました。
マーケティングサービスユニットでは、高付加価値サービスへのシフトを継続し、米国やアジアがけん引して販売は伸長しましたが、2月後半からの顧客企業のマーケティング活動減退や、オンデマンド印刷を展開するキンコーズでの店舗来客の減少により減収となりました。
これらの結果、当事業の売上高は2,100億円(前期比7.8%減)、営業利益は米中貿易摩擦による関税5億円やマーケティングサービスユニットにおける子会社ののれんの減損損失16億円の計上をしたことも影響し、43億円(同68.5%減)となりました。
③ヘルスケア事業

医療ITユニットでは、北米でPACS(医用画像保管・管理システム)の大型案件を受注し、日本でもPACSの販売が堅調に推移しました。また、アジアにおいてもPACSの販売を開始し、当期後半の厳しい経済環境の中で増収を維持しました。
これらの結果、当事業の売上高は878億円(前期比3.4%減)、営業利益は子会社の拠点売却に係る固定資産評価減5億円を計上したことも影響して、6億円(同73.1%減)となりました。
④産業用材料・機器事業

産業用光学システム分野では、計測機器ユニットで、物体色向け計測器の需要の停滞傾向が新型コロナウイルス感染症による事業活動の制限によってさらに強まり、光源色向け計測器は前期に見られたディスプレイ製品の多様化に伴う大口需要が当期に減少した影響を当期後半で持ち直しつつあったところ、新型コロナウイルス感染症により事業活動が制限されたり、中国での通関に通常より時間を要した結果、顧客への納品が翌期に持ち越され、ユニット全体で減収となりました。中国や韓国の顧客からの引き合いは継続しており、当期末から商談が再開しつつあります。
これらの結果、当事業の売上高は、1,096億円(前期比6.1%減)、営業利益は192億円(同8.3%減)となりました。
(3)財政状態の状況
前連結会計年度末 | 当連結会計年度末 | 増減 | |
資産合計 (億円) | 12,189 | 12,767 | 577 |
負債合計 (億円) | 6,530 | 7,430 | 899 |
資本合計 (億円) | 5,659 | 5,337 | △322 |
親会社の所有者に帰属する持分合計(億円) | 5,556 | 5,237 | △319 |
1株当たり親会社所有者帰属持分 (円) | 1,123.39 | 1,058.29 | △65.10 |
親会社所有者帰属持分比率 (%) | 45.6 | 41.0 | △4.6 |
当連結会計年度末(以下「当期末」)の資産合計は、前期末比577億円(4.7%)増加し1兆2,767億円となりました。これは主に、IFRS第16号「リース」(以下「IFRS第16号」)適用等による有形固定資産の増加1,023億円、棚卸資産の増加178億円、現金及び現金同等物の減少349億円、営業債権及びその他の債権の減少147億円、のれん及び無形資産の減少83億円、その他の金融資産の減少56億円によるものであります。
負債合計については、前期末比899億円(13.8%)増加し7,430億円となりました。これは主に、IFRS第16号適用によるリース負債の増加1,142億円、社債及び借入金の増加155億円、営業債務及びその他の債務の減少123億円、その他の金融負債の減少94億円、未払法人所得税の減少75億円によるものであります。
資本合計については、前期末比322億円(5.7%)減少し5,337億円となりました。
親会社の所有者に帰属する持分合計は、前期末比319億円(5.7%)減少し5,237億円となりました。これは主に、その他の資本構成要素(主に在外営業活動体の換算差額)の減少224億円、剰余金の配当による減少148億円によるものであります。
これらの結果、1株当たり親会社所有者帰属持分は1,058.29円となり、親会社所有者帰属持分比率は4.6ポイント減少の41.0%となりました。
(4)キャッシュ・フローの状況
(単位:億円)
前連結会計年度 | 当連結会計年度 | 増減 | |
営業活動によるキャッシュ・フロー | 571 | 301 | △270 |
投資活動によるキャッシュ・フロー | △414 | △500 | △85 |
計 (フリー・キャッシュ・フロー) | 156 | △198 | △355 |
財務活動によるキャッシュ・フロー | △402 | △119 | 283 |
当期の連結キャッシュ・フローの状況は、営業活動によるキャッシュ・フロー301億円の収入と、投資活動によるキャッシュ・フロー500億円の支出の結果、営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローを合計したフリー・キャッシュ・フローは198億円のマイナスとなりました。
また、財務活動によるキャッシュ・フローは119億円の支出となりました。
そのほかに、現金及び現金同等物に係る為替変動の影響額があり、当期末の現金及び現金同等物の残高は、前期末比349億円減少の899億円となりました。
当期における各キャッシュ・フローの状況は、次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
税引前利益2億円、減価償却費及び償却費771億円等によるキャッシュ・フローの増加と、棚卸資産の増加による減少231億円、営業債務及びその他の債務の減少による減少48億円、法人所得税の支払157億円等によるキャッシュ・フローの減少により、営業活動によるキャッシュ・フローは301億円の収入となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
有形固定資産の取得による支出366億円、無形資産の取得による支出129億円、子会社株式の取得による支出63億円等があり、投資活動によるキャッシュ・フローは500億円の支出となりました。
この結果、営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローを合計したフリー・キャッシュ・フローは198億円のマイナス(前期は156億円のプラス)となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
短期借入金の純増加額116億円、社債の発行及び長期借入309億円等の収入と、社債の償還及び長期借入金の返済208億円、リース負債の返済187億円、配当金の支払148億円等の支出により、財務活動によるキャッシュ・フローは119億円の支出(前期は402億円の支出)となりました。
(5)生産、受注及び販売の実績
①生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
セグメントの名称 | 当連結会計年度 (自 2019年4月1日 至 2020年3月31日) | 前期比 |
百万円 | % | |
オフィス事業 | 294,434 | 90.6 |
プロフェッショナルプリント事業 | ||
ヘルスケア事業 | 21,462 | 105.7 |
産業用材料・機器事業 | 102,096 | 94.2 |
報告セグメント計 | 417,993 | 92.1 |
その他 | 6,640 | 82.6 |
合計 | 424,633 | 91.9 |
(注1)金額は、売価換算値で表示しております。
(注2)上記金額には、消費税等は含んでおりません。
(注3)オフィス事業、プロフェッショナルプリント事業につきましては、共通の設備にて生産を行っておりますので、当該生産拠点における生産実績を記載しております。
②受注実績
当社グループは見込み生産を主としておりますので、記載を省略しております。
③販売実績
販売状況については、「(2)経営成績の状況」において各セグメントの業績に関連付けて示しております。
(6)資本の財源及び資金の流動性
①資本政策の基本的な方針
当社は課題提起型デジタルカンパニーを目指してビジネスモデルの変革に取り組み、中長期的な企業価値向上に向けた持続的な成長を支えるための最適な資本政策を実施していきます。
特にキャッシュ・フロー創出力の強化と資本効率(ROE・ROIC)の向上を重視し、その実現に向けて、「成長投資の実施」「株主還元の充実」及び「財務基盤の強化」について、これらの最適バランスを目指した資本政策を推進し、資金効率の向上と資本コストを意識した最適な資本・負債構成を目指します。
1)資本効率の向上
資本コストを重視し、資本コストを安定的に上回るROE・ROICの向上を目指します。このために、KM-ROIC及び投下資本収益(注)を経営管理指標とし、事業ポートフォリオマネージメントの強化を通じて企業価値の最大化を図ります。
2)株主還元の充実
連結業績や成長分野への戦略投資の推進等を総合的に勘案しつつ、積極的に利益還元することを基本とし、配当額の向上と機動的な自己株式の取得を通じて、株主還元の充実に努めます。
3)財務健全性の担保
財務ガバナンスの強化、財務リスクの最小化、資金効率の向上、株主資本の充実により積極的な成長投資を支える財務基盤の強化を図ります。
(注)KM-ROIC:投下資本収益率。事業利益を投下資本で除した比率。事業活動のために投下した資本を使って、どれだけ事業利益を生み出したかを示す指標。
投下資本収益:事業利益から投下資本コストを控除した金額。どれだけ投下資本コストを上回る価値を創造したかを示す指標。
投下資本収益の最大化によりROE及びROICの向上を図ります。
当社グループの資本の財源及び資金の流動性については、以下のとおりであります。
②資金需要
当社グループの主な資金需要は、製造費用、販売費及び一般管理費等の営業費用並びに当社グループの設備新設、改修等に係る投資や、将来の成長及び企業価値向上を目的としたM&Aによる投資であります。
③資金の源泉
当社グループの資金の主な源泉は、営業活動によるキャッシュ・フロー、金融機関からの借入や社債の発行による資金調達であります。
④資金調達についての方針
当社グループは、円滑な事業活動に必要な流動性の確保と財務の健全性・安定性維持を資金調達の基本方針とし、主に金融機関からの短期借入及び長期借入や社債の発行により資金調達を行っております。長期資金の調達に際しては、償還や返済の時期を分散することにより借り換えリスクの低減を図っております。また、資金調達は主に当社が行っており、必要資金を関係会社に主にキャッシュ・マネジメント・システムを通じて供給することで資金調達の一元化や効率化を図っております。
⑤流動性
当社グループは、従来から営業活動により多額のキャッシュ・フローを得ており、今後も引き続き重要な資金源になると見込んでおります。また、複数の金融機関との間で2024年9月末を期限とする1,000億円のコミットメントライン契約を締結し、効率的な資金の調達を行っている他、アンコミットメントベースの融資枠、国内社債発行登録枠を有しています。当社の既発行社債の債券格付、発行登録予備格付はともに株式会社格付投資情報センター(R&I)及び株式会社日本格付研究所(JCR)からA格を取得しています。
なお、新型コロナウイルス感染拡大に伴う世界的な経済活動の停滞が当社の営業キャッシュ・フローに悪影響を与えるリスクに備え更なる手元流動性の確保のため、2020年4月にアンコミットメントベースの融資枠の一部を利用し約850億円の短期借入を実行したことに加え、2020年5月に複数の金融機関との間で2021年5月21日を期限とする2,000億円のコミットメントライン契約を締結しました。これにより、アンコミットメントベースの融資枠を利用した借入による資金約850億円を含む手元現金及び現金同等物の残高、2つのコミットメントラインの未使用残高計3,000億円、アンコミットメントベースの融資枠の未使用残高の合計は2020年5月末現在で約5,000億円となり、当社グループの6ヶ月分の売上規模に相当する十分な手元流動性を確保していることになります。
また、当社グループ内の資金の効率化については、日本・北米・欧州・アジアパシフィックの各統括拠点においてキャッシュ・マネジメント・システムを導入しており、各地域の余剰資金を当社へ集中し一元的に管理を行うことにより、資金効率の向上と金融費用の極小化及びガバナンスの向上を図っております。なお、一時的な余剰資金は、安全性が極めて高い金融資産で運用しております。