有価証券報告書-第34期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

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2021/06/24 10:00
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(1) 経営成績等の概要
当連結会計年度においては、新型コロナウイルス感染症の拡大により、わが国をはじめ世界における社会経済活動全般が大きな影響を受けました。当社グループの事業についても、昨年4月の緊急事態宣言以降、観光のご利用減、出張の抑制等の出控えや消費の減退等、非常に厳しい状況下におかれました。
さらに、新型コロナウイルス感染症の再拡大等により、当連結会計年度を通じてご利用回復は見通せない状況で推移しました。
このような状況下において、当社グループとしては、「社会インフラ企業としての使命を守る」「お客様、社員の安全を守る」「社員の雇用を守る」「サプライチェーンを守る」の4つを基本方針として対応しています。
当連結会計年度においては、上記の通り、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴うご利用の減により、運輸業を中心に大幅な減収となったことを受け、営業収益は前期比40.4%減の8,981億円、営業損失は2,455億円、経常損失は2,573億円、法人税等を控除した親会社株主に帰属する当期純損失は2,332億円となりました。
このような極めて厳しい状況の中、鉄道の安全確保及びお客様、社員の新型コロナウイルス感染防止対策の着実な実施をはじめ、リスク管理体制の整備・運用に継続して努める一方、徹底した経費節減と設備投資の抑制によりキャッシュアウトの縮減を行っています。
引き続き、お客様に安全に、安心してご利用いただくための取り組みをグループ全体で推進するとともに、新たなお客様ニーズを踏まえた価値の提供等によるご利用促進や新たな需要創出を図っていきます。
セグメントごとの経営成績は、次のとおりであります。
なお、当連結会計年度より、報告セグメントの区分を変更しており、以下の前年同期比較については、前年同期の数値を変更後のセグメント区分に組み替えた数値で比較分析しております。
① 運輸業
当社グループは、2005年4月25日に福知山線列車事故を発生させたことを踏まえ、引き続き被害に遭われた方々への真摯な対応、安全性向上への弛まぬ努力を積み重ねるとともに、このような重大な事故を二度と発生させないとの決意のもと、「安全考動計画2022」を策定し、ハード、ソフト両面から安全性向上の取り組みや安全マネジメントの仕組みづくりを進めました。
また、3月には、福知山線列車事故の反省と教訓を継承し、将来にわたって安全な鉄道を実現していくことを目的として「将来にわたる鉄道の安全の実現に向けて」を策定しました。
新型コロナウイルス感染症の影響による厳しい状況下においても、最重要課題である鉄道の安全については、「安全考動計画2022」を着実に推進し、より高いレベルの安全をめざしていきます。
ホームの安全対策として、山陽新幹線の主要駅及び在来線のご利用の多い駅等におけるホーム柵の整備等を引き続き進め、岡山駅、広島駅、神戸駅の一部ホームで、また、鶴橋駅、高槻駅は全ホームで使用を開始しました。
また、激甚化する自然災害への対策として、引き続き斜面防災対策や降雨時運転規制へのレーダー雨量活用をはじめとした豪雨対策、山陽新幹線における逸脱防止ガードの整備、建物・高架橋等の耐震補強等の地震対策等を進めました。
新型コロナウイルス感染症の拡大防止については、お客様の安全を最優先に、より安心してご利用いただくためのさまざまな取り組みを行いました。
(新型コロナウイルス感染拡大防止に関する主な具体的取り組み)
・マスク着用や時差出勤等への協力を依頼
・在来線車両、駅のエレベーター、券売機等への抗ウイルス・抗菌加工の実施
・新幹線駅や在来線の主要駅におけるお客様用消毒液の設置
・列車内換気に関するご案内及び窓開けの実施
・駅及び車両の消毒や入念な清掃の実施
・時間帯別の混雑状況のホームページ等での告知(主な線区・区間の列車及び主な駅)
・インターネット列車予約サービスやみどりの券売機におけるシートマップ機能のご利用促進
・「期間限定 定期券併用チケットレス特急券」の発売(昨年6月~9月)
・社員の感染予防策、体調管理の徹底
これらの対策を行うとともに、ご利用状況や緊急事態宣言の発出等の状況を踏まえて、一部の定期列車の運休、臨時列車の運休・設定本数見直しを行い、あわせて、社員の一時帰休を実施してきました。また、ご利用変動に合わせて柔軟な対応が可能となるよう、3月のダイヤ改正で一部の定期列車の臨時列車化等を実施しました。
今後も安全・安心に十分留意しつつ、政府等の方針、社会情勢、お客様のご利用状況等を見極めながら、各エリアの状況に応じた需要回復策を段階的に講じていくとともに、個人旅行、若年層等の属性や移動目的に対応した施策を実施していきます。さらに、行動様式やお客様の意識の変化を捉え、「NEW WAY of RAILWAY」のコンセプトワードのもと、ビジネス、旅行等、さまざまなニーズに応じた新たな施策を展開していきます。
(需要回復に向けた主な具体的取り組み)
・「WEST EXPRESS 銀河」運転開始(昨年9月~山陰方面、同12月~山陽方面)
・「山陽新幹線直前割50」や北陸新幹線での「eチケット早特21/14」等の割引きっぷの発売
・MaaSアプリ「WESTER」「setowa」のリリース(同9月)
・「『どこでもドアで、どこいこう。』キャンペーン」の実施(「どこでもドアきっぷ」の発売等)(同10月~1月)
・「せとうち広島デスティネーションキャンペーン」の実施(同10月~12月)
・山陽・九州新幹線相互直通運転開始10周年を記念した「スーパー早特21」の発売(1月~)
・ICOCAエリア拡大(北近畿エリア、きのくに線、伯備線、関西本線、七尾線)(3月)
・IC定期券サービスの拡充(新幹線定期券の発売等)(3月)
・e5489「チケットレスサービス」(在来線)の拡充(3月)
・時差通勤ポイントサービス「ICOCAでジサポ」(4月サービス開始)
(新たな価値創造へ向けた主な具体的な取り組み)
・「JR西日本×住まい・ワーケーションサブスク」サービス実証実験の実施(昨年9月~11月)
・せとうちエリアにおける「グランピング事業」実証実験の実施(同9月~1月)
・荷物輸送の実証実験の実施(1月~伯備線、2月~山陽新幹線)
これらの取り組みを行いましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大による外出や移動の自粛等により、観光、ビジネスともにご利用が大幅に減少したこと等から、運輸業セグメントの営業収益は前期比48.9%減の4,768億円、営業損失は2,521億円となりました。
② 流通業
流通業については、各業界団体において作成されたガイドライン(以下、「ガイドライン」)を踏まえ、感染症対策を十分に実施し、安心してご利用いただけるように努めています。
3月には、新たな商業施設として、新大阪駅改札外に「エキマルシェ新大阪Sotoe」を開業しました。
また、デジタル活用の推進を図る取り組みの一環として、昨年7月には当社グループの商業施設・飲食店にモバイルオーダープラットフォーム「O:der(オーダー)」の導入を開始しました。
さらに、3月には、高槻駅と尼崎駅で、個室型ワークブース「テレキューブ」の営業を開始しました。
流通業セグメントに区分される宿泊特化型ホテルについては、昨年6月に「ヴィアイン広島新幹線口」を開業、「ヴィアイン下関」のリニューアルを実施し、同12月には「ヴィアイン大阪京橋」を開業しました。
しかしながら、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、物販飲食業や百貨店等で大幅な減収となったこと等により、流通業セグメントの営業収益は前期比37.1%減の1,422億円、営業損失は150億円となりました。
③ 不動産業
不動産業についても、流通業と同様に、「ガイドライン」を踏まえ、感染症対策を十分に実施し、安心してご利用いただけるように努めています。
ショッピングセンターでは、昨年6月に「金沢百番街」の一部エリアにおけるリニューアル開業を実施したほか、同9月には「さんすて岡山」のリニューアルを完了しました。さらに、同9月にアウトドア用品の専門店10店を集めた「LUCUA OUTDOOR from ALBi」をルクア大阪にオープンしました。
また、同11月にはシェアオフィス「ワークスペース阿倍野松崎町」をトライアルオープンしました。
しかしながら、不動産業セグメントでは、不動産販売等の減やショッピングセンターにおける新型コロナウイルス感染症の影響等により、営業収益は前期比11.7%減の1,457億円、営業利益は同16.2%減の292億円となりました。
④ 建設事業
建設事業においては、鉄道関連工事のほか、マンションや公共施設等の各種工事の受注に努めました。
建設事業セグメントの営業収益は、前期比11.6%増の524億円、営業利益は同2.5%減の68億円となりました。
⑤ その他
ホテル業及び旅行業についても、「ガイドライン」を踏まえ、感染症対策を十分に実施し、安心してご利用いただけるように努めています。昨年10月には新ブランドホテル「梅小路ポテル京都」を開業しました。
引き続き厳しい状況にありますが、行政の施策等も活用し、ご利用の回復に努めていきます。
その他セグメントでは、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、ホテル業や旅行業等で大幅な減収となったこと等により、営業収益は前期比40.8%減の809億円、営業損失は118億円となりました。
運輸業のうち、当社の鉄道事業の営業成績は以下のとおりであります。
ア.輸送実績
区分単位当事業年度
(自 2020年4月1日
至 2021年3月31日)
前事業年度比
営業日数365-
キロ程新幹線キロ812.6812.6
在来線キロ(28.0)
4,090.5
(28.0)
4,090.5
キロ(28.0)
4,903.1
(28.0)
4,903.1
客車走行キロ新幹線千キロ523,06993.3%
在来線千キロ771,19595.9
千キロ1,294,26494.8
輸送人員定期千人1,009,84384.9
定期外千人415,37257.5
千人1,425,21674.6




新幹線定期千人キロ783,78287.8
定期外千人キロ6,934,18135.2
千人キロ7,717,96337.4




定期千人キロ15,389,17981.7
定期外千人キロ5,545,38351.0
千人キロ20,934,56370.5


定期千人キロ3,477,84387.7
定期外千人キロ1,979,92045.9
千人キロ5,457,76465.9
定期千人キロ18,867,02382.8
定期外千人キロ7,525,30449.6
千人キロ26,392,32769.5
合計定期千人キロ19,650,80683.0
定期外千人キロ14,459,48541.4
千人キロ34,110,29158.2
乗車効率新幹線%18.947.1
在来線%27.437.7
%24.940.6

(注)1 キロ程欄の上段括弧書は、外数で第三種鉄道事業のキロ程であり、それ以外は第一種鉄道事業及び第二種鉄道事業のキロ程であります。また、前事業年度比は、前事業年度末の数値を記載しております。
2 客車走行キロ数には、試運転、営業回送を含めておりません。
3 輸送人キロ欄の近畿圏は、近畿統括本部の地域について記載しております。
4 乗車効率欄の前事業年度比は、前事業年度の数値を記載しております。
なお、乗車効率は次の方法により算出しております。
乗車効率 =輸送人キロ
客車走行キロ × 客車平均定員(標準定員)

イ.収入実績
区分単位当事業年度
(自 2020年4月1日
至 2021年3月31日)
前事業年度比








新幹線定期百万円10,19389.4%
定期外百万円155,35636.1
百万円165,54937.5




定期百万円96,20482.0
定期外百万円98,26451.7
百万円194,46963.2


定期百万円21,11385.4
定期外百万円38,32545.9
百万円59,43955.0
定期百万円117,31882.6
定期外百万円136,59049.9
百万円253,90861.1
合計定期百万円127,51183.1
定期外百万円291,94641.5
百万円419,45849.0
荷物収入百万円296.0
合計百万円419,46049.0
鉄道線路使用料収入百万円5,30799.0
運輸雑収百万円55,97280.4
収入合計百万円480,74051.6

(注) 旅客収入欄の近畿圏は、近畿統括本部の地域について記載しております。
(2) 資産、負債及び純資産の状況
当連結会計年度末の総資産額は、3兆4,794億円となり、前連結会計年度末と比較し、2,041億円増加しました。これは主に、現金及び預金の増加によるものです。
負債総額は、2兆5,234億円となり、前連結会計年度末と比較し、4,712億円増加しました。これは主に、社債及び借入金の増加によるものです。
純資産総額は、9,560億円となり、前連結会計年度末と比較し、2,670億円減少しました。これは主に、利益剰余金の減少によるものです。
(3) キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ1,317億円多い2,100億円となりました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
税金等調整前当期純利益が減少したことなどから、営業活動において支出した資金は1,032億円(前年同期は2,401億円の収入)となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
固定資産の取得による支出が減少したことなどから、投資活動において支出した資金は前連結会計年度に比べ569億円少ない2,116億円となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
社債や借入などの長期資金の調達を実施したことなどから、財務活動において得た資金は4,467億円(前年同期は291億円の支出)となりました。
(4) 生産、受注及び販売の実績
当社及びその連結子会社(以下「当社グループ」という。)の大多数は、受注生産形態を取らない業態であります。このため、生産、受注及び販売の状況については、「3[経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析]」における各事業のセグメント別経営成績に関連付けて示しております。
(5) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
文中における将来に関する事項は、当有価証券報告書提出日現在において判断したものであります。
① 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5[経理の状況] 1[連結財務諸表等] (1) [連結財務諸表][注記事項](重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。
② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社グループは、基幹事業である鉄道事業において安全性の向上に全力で取り組むとともに、その他のグループ事業においては、各事業の特性を活かした様々な施策の展開及び保有資産の有効活用等に努めてまいりました。
当連結会計年度においては、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴うご利用減により、運輸業を中心に大幅な減収となったことにより、営業収益が減少し、営業損失、経常損失、親会社株主に帰属する当期純損失となりました。
ア.営業収益
営業収益は、前連結会計年度に比べ40.4%、6,100億円減少の8,981億円となりました。
運輸業セグメントについては、当社の運輸収入が新型コロナウイルス感染症の拡大による外出や移動の自粛等により、観光、ビジネスともにご利用が大幅に減少したこと等により、営業収益は前連結会計年度に比べ48.9%、4,565億円減少の4,768億円となりました。
このうち、新幹線については、前連結会計年度に比べ62.5%、2,756億円減少の1,655億円となりました。
在来線については、前連結会計年度に比べ38.9%、1,617億円減少の2,539億円となりました。
流通業セグメントについては、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、物販飲食業や百貨店等で大幅な減収となったこと等により、前連結会計年度に比べ37.1%、838億円減少の1,422億円となりました。
不動産業セグメントについては、不動産販売等の減やショッピングセンターにおける新型コロナウイルス感染症の影響等により、前連結会計年度に比べ11.7%、193億円減少の1,457億円となりました。
建設事業セグメントについては、鉄道関連工事のほか、マンションや公共施設等の各種工事の受注に努めたことにより、前連結会計年度に比べ11.6%、54億円増加の524億円となりました。
その他セグメントについては、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、ホテル業や旅行業等で大幅な減収となったこと等により、前連結会計年度に比べ40.8%、557億円減少の809億円となりました。
イ.営業費
コスト構造改革による固定費の削減を実施したことなどから、前連結会計年度に比べ15.1%、2,038億円減少の1兆1,437億円となりました。
ウ.営業損益
営業損益は、前連結会計年度に比べ4,061億円悪化し、2,455億円の損失となりました。
エ.営業外損益
営業外損益については、雇用調整助成金の受入などにより、前連結会計年度に比べ4億円改善し、118億円の損失となりました。
オ.経常損益
経常損益は、前連結会計年度に比べ4,057億円悪化し、2,573億円の損失となりました。
カ.特別損益
特別損益については、投資有価証券評価損が発生したことなどにより、前連結会計年度に比べ96億円悪化し、173億円の損失となりました。
キ.親会社株主に帰属する当期純損益
親会社株主に帰属する当期純損益は、前連結会計年度に比べ3,225億円悪化し、2,332億円の損失となりました。
③ 経営成績に重要な影響を与える要因
ア.収益に影響する要因
[運輸業]
運輸業セグメントは鉄道運輸収入が大宗を占めております。鉄道運輸収入は、主に鉄道利用者数により左右され、航空機を含めた他の輸送モード、同業他社との競争や、経済情勢、少子高齢化等、多くの要因により影響を受けます。また、鉄道利用者は、安全性、信頼性をベースに、所要時間・ネットワーク性・運賃・快適性を基準として選択を行うと考えております。
新幹線の収入は、主として、ビジネスや観光旅行客の数に左右され、経済環境や航空機との競争、訪日観光客の動向などに影響を受けます。
アーバンネットワークの収入は通勤・通学客が多いことから、経済情勢の影響を受けにくいと考えておりますが、少子高齢化や都市化等の人口推移による影響を受けると考えております。
その他在来線のうち、都市間輸送の収入は経済情勢や高速バス、自家用車との競争による影響を受けます。また、ローカル線の収入は自家用車との競争や地域の経済情勢及び人口の推移による影響を受けます。
[流通業]
流通業セグメントの収入は、主に百貨店業、物品販売業及び飲食業からの収入で構成されております。当セグメントの収入は、経済情勢及び他の百貨店、物販店舗、レストランとの競争に左右されます。当セグメントの事業の多くが駅やその周辺で行われているため、鉄道輸送量も影響を受ける要因です。しかし、駅は比較的安定したご利用があるため、当セグメントの収益は同業他社に比べ、これらの影響は少ないと考えております。また、新規店舗の開発や既存店舗の廃止によっても左右されます。
[不動産業]
不動産業セグメント収入は、主に駅やその周辺施設の賃貸収入、沿線におけるマンションの分譲販売により得られます。当セグメントは、経済情勢の影響を受けることや、マンション分譲事業の販売数の増減により業績が変動するものの、賃貸事業において、駅は比較的安定したご利用があり、テナントは立地の利便性から駅構内及びその周辺オフィスを好むことから、同業他社に比べ、経済情勢による影響は少ないと考えております。
[建設事業]
建設事業セグメントの収入は、主に鉄道関連工事やマンション、公共施設等の工事の請負により得られます。当セグメントは、経済情勢及び公共事業、民間の設備投資の動向やこれらの受注環境の影響を受けます。
[その他]
その他セグメントの収入は、主としてホテル業及び旅行業によるものです。ホテル業の収益は、経済情勢や宿泊料金、他ホテルとの競争、訪日観光客の動向に影響されます。また、旅行業による収入は主に他旅行業者との競争、経済情勢やテロなど旅行を妨げる状況により影響を受けます。
その他セグメントには、ホテル業、旅行業のほか、広告業等がありますが、そのほとんどが基幹事業である鉄道事業の顧客基盤、駅及びその他の施設の強化を目的としたものであります。
イ.費用に影響する要因
[人件費]
当社は、年齢構成等により退職者数が多い状況にある中で、新規採用等により事業運営に必要な社員数を確保してきております。当事業年度の人件費は1,838億円となっております。
なお、高年齢層の人材を確保し、一層円滑な技術継承を図ること及び高年齢者雇用安定法など法令への対応の観点から、定年後の再雇用制度を設定しております。また、将来にわたり事業を運営しうる体制を構築するという視点で、長期雇用を前提とした新卒採用を中心に採用を行うほか、多様な人材確保等の観点から、契約社員からの採用、中途採用等を実施しており、当事業年度においては約850名の採用を行いました。
[物件費]
当社は、鉄道事業の特徴である、(ⅰ)多くの設備を有し、安全の確保のために必要なメンテナンスに係るコストの比重が大きい、(ⅱ)収益に連動しない「固定費用」の割合が高いなどの事情から、安全性の確保を大前提として、メンテナンスが容易な車両及び設備の導入、機械化、既存のインフラの改良などにより、これらの経費を構造的に削減する取り組みを行っております。
しかしながら、福知山線列車事故の責任とその重大性及び新幹線重大インシデントを重く受け止め、安全で安心・信頼していただける鉄道を築き上げるために全力で取り組んでいるところであり、当分の間、安全性の向上に必要となる費用の増加が想定されます。
また、対抗輸送機関との競争力向上のため、サービスレベルの向上、販売促進のためのIT化、効率化に寄与する外注化などによる費用の増加も想定されます。
さらに、電気料金の値上げによる費用の増加が想定されます。
[線路使用料等]
当社は、JR東西線を関西高速鉄道株式会社から借り受けており、2004年度以降の線路使用料の年額については、3年度毎に協議し、金利変動等を勘案して決定することとなっております。また、2018年度以降の線路使用料については減額を行い、当事業年度の費用は129億円となっております。
[支払利息]
営業外費用のうち、重要なものとして支払利息があります。当社グループとしては、経営の安定性を保つために長期債務残高や支払利息の水準を注視しております。当連結会計年度の当社グループの支払利息については204億円となり、前連結会計年度に比べ9億円増加しております。
④ 流動性と資本の源泉
ア.キャッシュ・フロー
当連結会計年度のキャッシュ・フローの分析については、「第2[事業の状況] 3[経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析] (3) キャッシュ・フローの状況」に記載の通りです。
イ.資本需要と設備投資
当社グループは、当連結会計年度において総額2,373億円の設備投資を実施し、そのうち運輸業では1,747億円、流通業、不動産業、建設事業及びその他では、36億円、471億円、10億円及び107億円をそれぞれ実施しました。運輸業に関する設備投資においては、安全性の向上を中心とした鉄道インフラの整備や、老朽車両の更新等を目的とした新型車両の購入を行っております。流通業、不動産業、建設事業及びその他における当社グループの設備投資においては、新設備の建設や老朽設備の改築等を行っております。
さらに、福知山線列車事故の責任とその重大性及び新幹線重大インシデントを重く受け止め、安全で安心・信頼していただける鉄道を築き上げるために全力で取り組んでいるところであり、安全をより一層高めるために必要な運転保安設備の整備等ハード対策を盛り込むとともに、今後も様々な検討を行うこととしております。
ウ.資金調達
資金調達については、既存債務の返済資金や設備投資資金等のうち当社グループのフリー・キャッシュ・フローで賄いきれない分の調達を主としており、その調達手段は社債及び銀行等からの長期借入金等、市場動向や金利動向等を総合的に勘案しながら決定しております。
また、短期的に資金を必要とする場合には、主として短期社債やコミットメントライン等で賄うことを基本としております。
なお、コミットメントラインの一部については、地震が発生した場合でも、あらかじめ定めた条件によって資金調達が可能な契約内容となっております。
エ.流動性
新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、資金調達を進めた結果、当連結会計年度末現預金残高は2,102億円となり、流動性資金は十分な水準を確保しているものと考えております。
また、新型コロナウイルス感染症の長期化等により資金需要が増加した場合においても、社債及び銀行等からの長期借入金に加え、短期社債やコミットメントライン等による短期借入も活用し、流動性資金を十分に確保できるものと考えております。
一方で、資金効率向上は企業経営にとって極めて重要と認識しており、その一環として、2002年10月からキャッシュ・マネジメント・サービス(CMS)を導入し、グループ内資金の有効活用を図っております。