有価証券報告書-第86期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

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2021/06/29 14:01
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(1) 経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループ(当社及び連結子会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
① 財政状態及び経営成績の状況
当期における日本経済は、新型コロナウイルス感染症の影響長期化により個人消費や企業活動が停滞し、政府の各種施策により一部経済活動持ち直しの動きが見られたものの、マイナス成長となりました。世界経済は、中国ではいち早く景気回復の動きが見られた一方で、世界各地で感染症拡大第2波、第3波による経済混乱が続き、世界的に人・モノの動きや経済活動が制限されたことで、歴史的な低迷に陥りました。
このような環境の中、当期は2017年度にスタートした当社グループ第5次中期経営計画の最終年度として、中期経営ビジョン「Technology Oriented Value Creation『技術に裏付けられた価値創造』」のもと、当社では第5次中期事業方針である「『ものづくりの進化と革新』~Standard向けのYKKものづくりへの挑戦~」の実現を、YKK AP㈱では「高付加価値化と需要創造によるAP事業の持続的成長」の実現を目指し、それぞれの事業を推進してまいりました。しかし、新型コロナウイルス感染症により国内外経済の停滞が長期化した影響は大きく、当期後半にかけて徐々に業績を持ち直したものの、次期中期経営計画に多くの課題を繰り越す形となりました。
その結果、当期の連結業績は、売上高653,765百万円(前期比10.8%減)、営業利益26,346百万円(前期比36.3%減)、経常利益30,134百万円(前期比29.4%減)、親会社株主に帰属する当期純利益17,340百万円(前期比26.6%減)と、第5次中期経営計画で掲げた目標値から大きく乖離した業績となりました。
セグメントごとの経営成績は、次のとおりであります。
(a)ファスニング事業
当期のファスニング事業を取り巻く事業環境は、世界的な新型コロナウイルス感染症拡大による経済活動の自粛と、それに伴うアパレル業界を中心とした大幅な市況悪化の影響を受けました。また、世界各地でのロックダウンにより、一部の海外事業会社では工場の操業停止等を余儀なくされました。夏以降の各国の経済活動再開に伴い、アパレル業界や自動車業界の緩やかな回復が見られたものの、感染症の再拡大により欧州等で再度のロックダウンが行われ、厳しい環境が継続しています。
このような事業環境の下、生活必需品を取扱う量販店への取組の強化や、いち早く感染症を抑え込んだ中国内需市場に対しての積極的なアプローチを行いましたが、各国の市況低迷を受けアパレル分野向け販売が低調となりました。また、人々の移動が制限される中、旅行産業も大きく落ち込み、鞄分野の販売も低調な結果となりました。
地域別でも、全ての地域において減収となっており、厳しい結果となりました。日本では、ファスニング事業全体の販売低調により材料供給等のグループ会社向け販売が減少しました。北中米では、ジーンズ分野向けを中心に販売が減少しました。EMEA(欧州・中東・アフリカ)では、ロックダウンの影響により高級鞄やアパレル向けなど全般的に低調な販売となりました。アジア地域(中国・日本を除く。以下、同じ。)では、日欧米向けの加工輸出市場での販売や、ロックダウンの影響によりインド・インドネシア等内需市場向け販売が低調となりました。中国では、他国に先行した経済活動再開の中、唯一内需市場向け販売を伸ばしましたが、加工輸出市場向け販売が厳しく、全体では低調となりました。
その結果、売上高(セグメント間の内部売上高を含む)は前期比18.2%減の247,183百万円となりました。営業利益は、不急な費用の繰り延べ・削減、コストダウン施策の積み増し、投資抑制等の増益要因があったものの、市況低迷に伴う販売ボリュームの減少及び操業度の低下による減益要因が大きく、前期比52.1%減の17,354百万円となりました。
(b)AP事業
当期のAP事業を取り巻く事業環境は、日本国内においては、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、住宅購入に対する消費マインドの低下と建築現場の遅延や中止もあり、新設住宅着工戸数は前年割れとなりました。海外においては、北米では、住宅建材は着工戸数が郊外で増加し前年超えしたものの、主力のビル建材は感染症拡大の影響により市場が大幅に下落しました。中国では、感染症は早期に収束したものの、ターゲットである超高級市場が中高級市場に比べて低迷、台湾では、高級集合住宅の市場は好調に推移、インドネシアでは、感染症拡大の影響により住宅市場は厳しい状況が継続しました。このような事業環境の中、第5次中期事業方針として掲げた「高付加価値化と需要創造によるAP事業の持続的成長」のもと、事業を推進してまいりました。
日本国内においては、新型コロナウイルス感染症拡大による外出自粛の中、新たな営業活動としてオンライン情報発信「RELATIONS NEXT『窓で、安心。』」をテーマとするフォーラムやWEB展示会を開催してまいりました。住宅事業では、高断熱化推進により樹脂窓の販売を伸ばし、高断熱化率を67%まで高めるとともに、防災需要により窓シャッターリフォームが伸長しました。ビル事業では、個別防火商品の拡充と供給力強化を進めてまいりました。海外においては、北米主力のビル建材やアジア地域において、感染症拡大の影響の長期化により販売が落ち込む一方で、北米では、2019年12月に全株式を取得したエリーAP社による販売増加や住宅建材が好調で過去最高の販売となりました。また、2020年9月に海外事業会社をYKK AP㈱の子会社に再編し、資本と事業運営を一本化したことで、スピードを持った経営体制を整えました。
その結果、国内外ともに新型コロナウイルス感染症拡大の影響による販売減少で、AP事業の売上高(セグメント間の内部売上高を含む)は、前期比5.4%減の402,884百万円となりました。営業利益は、国内では製造コストダウンや原材料・資材価格の低下、販管費の削減による増益要因があったものの、販売減少や市場競争の激化により減益となり、全体では前期比7.3%減の21,193百万円となりました。
(c)その他
その他の事業につきましては、ファスニング加工用機械・建材加工用機械・金型及び機械部品の製造・販売、不動産事業、アルミ製錬事業等を行っております。
その他の事業の売上高(セグメント間の内部売上を含む。)は、前期比29.2%減の41,531百万円、営業損失については、3,185百万円(前期営業損失115百万円)となりました。
当社グループの財政状態については、「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ①財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容」に記載しております。
② キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、営業活動によるキャッシュ・フローの収入が、投資活動によるキャッシュ・フロー及び財務活動によるキャッシュ・フローの支出を上回り、これらに現金および現金同等物に係る換算差額を加えた結果、前連結会計年度末に比べ46,669百万円増加し、211,378百万円となりました。
当社グループのキャッシュ・フローの状況の詳細については、「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ②キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報」に記載しております。
③ 生産、受注及び販売の実績
当連結会計年度末における実績は、次のとおりであります。
(a)生産実績
セグメントの名称生産高(百万円)前年同期比(%)
ファスニング214,28281.2
AP360,31296.9

(注) 1. 上記の金額は、販売価格で表示しております。
2. その他については、そのほとんどがグループ内への販売のため記載を省略しております。
(b)受注実績
セグメントの名称受注高(百万円)前年同期比(%)受注残高(百万円)前年同期比(%)
ファスニング243,29081.713,38493.3
AP391,29292.5164,39899.8

(注) 1. 上記の金額は、販売価格で表示しております。
2. その他については、そのほとんどがグループ内への販売のため記載を省略しております。
(c)販売実績
セグメントの名称販売高(百万円)前年同期比(%)
ファスニング247,01681.8
AP402,76994.6
その他3,97972.9
合計653,76589.2

(注) 1. 上記の金額は、消費税等抜きで表示しております。
2. セグメント間の取引については相殺消去しております。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
①財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社グループの財政状態は、当連結会計年度末(以下「当期末」という)の総資産は、前連結会計年度末(以下「前期末」という)比31,273百万円増加(+3.2%)して1,014,918百万円となりました。流動資産は前期末比33,146百万円増加(+6.5%)の539,734百万円、固定資産は前期末比1,873百万円減少(△0.4%)の475,183百万円となりました。
流動資産増加の主な要因は、現金及び預金の増加等です。固定資産減少の主な要因は、有形固定資産の減少等です。
当期末の負債合計は、前期末比41,690百万円減少(△13.0%)して279,390百万円となりました。流動負債は前期末比2,134百万円減少(△1.2%)の180,770百万円、固定負債は前期末比39,555百万円減少(△28.6%)の98,620百万円となりました。
流動負債減少の主な要因は、仕入債務の減少等です。固定負債減少の主な要因は、退職給付に係る負債の減少等です。
当期末の純資産は、前期末比72,963百万円増加(+11.0%)して735,527百万円となりました。純資産増加の主な要因は、退職給付に係る調整累計額の増加等です。
これらの結果、自己資本比率は前期末の65.7%から70.8%となりました。また1株当たり純資産額は、前期末の539千円から599千円となりました。
当社グループの経営成績は、「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ① 財政状態及び経営成績の状況」に記載のとおりであります。
当社グループは、事業の収益性と資産効率を高めるとともに得た利益を更なる事業成長に積極的に投資するために、第5次中期経営目標を「売上高営業利益率8.0%以上」と「ROA5.0%以上」と定めておりました。しかし、第5次中期の最終年度である当期は、新型コロナウイルス感染症の影響が大きく、当社グループの営業利益が減益となった結果、売上高営業利益率は4.0%、ROAは1.7%となりました。
②キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
(a)キャッシュ・フローの状況
(単位:百万円)前連結会計年度当連結会計年度増減額
営業活動によるキャッシュ・フロー77,73182,2414,510
投資活動によるキャッシュ・フロー△68,123△40,17627,947
フリーキャッシュ・フロー9,60742,06532,457
財務活動によるキャッシュ・フロー△5,446△5,284162
現金及び現金同等物に係る換算差額△5,6939,88815,582
現金及び現金同等物の期末残高164,708211,37846,669

(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によって得られたキャッシュ・フローは82,241百万円と、前期に比べ4,510百万円増加しました。これは主に、たな卸資産の増減額が前期は1,049百万円の減少であったのに対し、当期は9,683百万円の減少となったこと等によるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動に使用されたキャッシュ・フローは40,176百万円と、前期に比べ27,947百万円減少しました。これは主に、有形固定資産の取得による支出が前期と比べ22,016百万円減少し、38,471百万円となったこと等によるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動に使用されたキャッシュ・フローは5,284百万円と、前期に比べ162百万円減少しました。これは主に、ファイナンス・リース債務の返済による支出が前期と比べ468百万円減少し、1,437百万円となったこと等によるものです。
また、為替変動の影響により、当連結会計年度は現金及び現金同等物が9,888百万円増加しました。
以上の結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、前連結会計年度末の164,708百万円から46,669百万円増加(+28.3%)して211,378百万円となりました。
(b)流動性及び資金の源泉
(ⅰ) 資金調達の基本方針および資金調達手段
当社グループは、当連結会計年度末において現金及び現金同等物を211,378百万円保有し、また、換金性の高い金融資産を3,745百万円保有しております。そのうち、海外の連結子会社が保有する現金及び現金同等物と換金性の高い金融資産の合計額は148,397百万円でありますが、これらは将来における海外事業の成長投資に充当する予定であります。なお、連結子会社は原則として銀行等の外部からの資金調達は行わず、当社や地域統括会社が連携して効率的なグループファイナンスを行っております。
当社グループは、当連結会計年度末において手許現金及び現金同等物を十分に確保しておりますが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を含む将来の不確実性への対応として、安定的な外部資金調達能力の維持向上を図っております。当社グループにおける当連結会計年度末の外部からの借入金残高は6,334百万円であり、総資産に対して0.6%と非常に低い依存度となっており、かつ、流動比率は298.6%、自己資本比率は70.8%と、強固な財務基盤を保っております。また、当社グループは、外部機関から格付を取得しておりますが、当連結会計年度末における格付投資情報センター(R&I)の格付はAA-(信用力は極めて高く、優れた要素がある)となっております。これらに基づき、金融機関から低コストにて借入金等による追加の資金調達が可能と考えております。それに加えて、当連結会計年度においては、社債発行枠、および取引金融機関との間におけるコミットメント・ライン契約枠を拡大し、合計で100,000百万円を超える調達枠を確保しております。
なお、一時的な余資は安全性の高い金融資産で運用し、投機的な取引は一切行わないという基本方針に従い取り組んでおります。
(ⅱ) 資金需要
当社グループの主な資金の源泉は営業活動によって獲得した資金であり、当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは82,241百万円であります。当社グループは、投資活動に使用されるキャッシュ・フローを営業活動により得られたキャッシュ・フローの範囲内とする方針を掲げており、これらキャッシュ・フローの合計をフリー・キャッシュフローと定義しております。当連結会計年度のフリー・キャッシュフローは42,065百万円であり、ここから配当金の支払い、および有利子負債の返済等の財務活動に5,284百万円を使用しました。当連結会計年度においては、新型コロナウイルス感染症拡大による将来の不確実性への対応として、ファスニング事業、AP事業ともにバランスシート経営による資金確保を方針として掲げ、在庫水準の適正化等による運転資金の圧縮、新規の設備投資の抑制等により、将来における成長投資に向けて、現金及び現金同等物を増加させております。
当社グループの当連結会計年度における主な資金需要は、設備投資資金、研究開発資金、配当金支払い資金、納税資金、および有利子負債の返済資金等となり、当社グループは、これらの資金需要に対して主に自己資金で賄いました。翌連結会計年度における主な資金需要として、増収計画に伴い増加が見込まれる運転資金、設備投資資金(特にAP事業における国内設備投資資金)、研究開発資金、配当金支払い資金、および納税資金等を見込んでおります。
なお、配当政策については、「第4 提出会社の状況 3.配当政策」に記載しております。
③重要な会計方針及び見積りに用いた仮定
連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。