有価証券報告書-第38期(2024/04/01-2025/03/31)
(1) 経営成績等の概要
当連結会計年度においては、インバウンドをはじめとするお客様のご利用が堅調に推移する一方で、労働力不足やインフレ等、当社グループの経営に重大な影響を及ぼす環境の変化がより顕在化してきました。
このような事業環境の中で、当社グループは、2024年4月にアップデートを行った「中期経営計画2025」のもと、「私たちの志」「長期ビジョン」の実現に向けて、北陸新幹線金沢-敦賀間開業の効果最大化、大阪駅、広島駅周辺のまちづくりの推進、WESTER経済圏の拡大や総合インフラマネジメント事業「JCLaaS」の推進等を通じて、地域・社会とのつながりの進化に取り組みました。
また、鉄道の運行や大阪駅周辺施設への再生可能エネルギー由来電力の導入等、地球環境保護に取り組むとともに、社員全員がいきいきと活躍できる職場の実現に向けて、人財戦略の推進や「JR西日本グループ行動規範」の制定等に取り組みました。
その結果、営業収益は前期比4.5%増の1兆7,079億円、営業利益は同0.2%増の1,801億円、経常利益は同1.0%減の1,656億円、法人税等を控除した親会社株主に帰属する当期純利益は同15.4%増の1,139億円となりました。
これをセグメント別に示すと次のとおりとなります。
① モビリティ業
当社グループは、2005年4月25日に福知山線列車事故を発生させたことを踏まえ、引き続き、被害に遭われた方々へ真摯に対応してまいります。また、2023年4月にスタートした「安全考動計画2027」に基づき、「お客様を想い、ご期待にお応えする」ことを強く意識して安全性の向上に取り組むよう、安全に対する向きあい方を深め、組織風土として醸成すること等に取り組んでいます。
当連結会計年度においても、ホーム柵の整備を引き続き進めるとともに、お客様の転落を検知し乗務員や駅係員に知らせるホーム安全スクリーンや、ホームと車両の段差・隙間対策等、ホームの安全対策を進めました。具体的な例としては、大阪・関西万博も念頭に、西九条駅、弁天町駅のすべてのホームでホーム柵の使用を開始し、あわせて同ホームにてホームと車両の段差や隙間を縮小する整備も実施しました。また、桜島駅、ユニバーサルシティ駅等ではホーム安全スクリーンの使用を開始しました。加えて、列車内やホームでの防犯対策として、防刃傘を開発し一部列車の乗務員室に配備しました。
自然災害への対策としては、斜面防災対策や降雨時運転規制へのレーダー雨量活用をはじめとした豪雨対策を引き続き実施しました。山陽新幹線における地震対策については、耐震補強対策及び逸脱防止対策を全線に拡大すべく、主要な対策は2027年度末までの完了をめざし、着実に整備を進めました。在来線における建物・高架橋等の耐震補強等についても、計画に基づき着実に整備を進めました。
鉄道事業の持続的進化に向けては、機会を捉えた需要創出や価値創造、デジタルを活用した新たな価値提供の取り組みを推進するとともに、鉄道DXによる業務プロセスの変革等、鉄道事業の持続的な運営に向けた安全性向上・生産性向上に取り組みました。
・特急「やくも」新型車両の投入(国内初の技術実用化による乗り心地の大幅な改善)(4月)
・有料座席サービスのさらなる展開(乗車後に特急券を購入できるサービスの開始(5月)、「快速 うれしート」、「らくラクはりま」の拡大(10月~))
・山陽新幹線全線開業50周年記念「WESTERポイント超特典きっぷ」等、ポイント利用商品の拡大(5月~)
・「森の芸術祭 晴れの国・岡山」に向けたきっぷや旅行商品の設定、キャンペーンの展開(9月~11月)
・ICOCA定期券にさまざまな特典をプラスしてご利用いただける「ICO+」(イコプラ)の実施(10月~)
・北陸新幹線金沢-敦賀間開業を契機とした北陸デスティネーションキャンペーンの開催(10月~12月)、新たな観光列車「はなあかり」の運行開始(10月)
・広域型 MaaS アプリ「KANSAI MaaS」を活用した関西私鉄各社との連携商品の発売(「KANSAI MaaSワンデーパス」、「大阪スマートアクセスパス」)(1月~)
・2025年大阪・関西万博へのアクセス輸送の整備(弁天町駅・桜島駅改良、「エキスポライナー」の設定)(3月)
・ロボット技術を活用した高所の鉄道設備メンテナンスの安全性向上(多機能鉄道重機の使用開始)(7月)
・新幹線の自動運転導入に向けた取り組み(北陸新幹線は2029年度(12月)、山陽新幹線は2030年代の開始をめざす(9月))
・生成AIを活用した間接部門の業務改革と、現場の個別業務課題への適用
モビリティ業セグメントでは、北陸新幹線の敦賀延伸やインバウンド需要の増加等により、営業収益は前期比6.1%増の1兆467億円、営業利益は同10.7%増の1,225億円となりました。
② 流通業
流通業セグメントでは、スターバックス等、外部との提携店舗の拡充や、立地の特性を活かした店舗展開(「エキマルシェ大阪UMEST」開業等)によりお客様の多様なニーズへの対応力を高めたほか、大阪・関西万博会場内におけるオフィシャルストアの出店準備、地域商品作り等、さらなる成長に向けた取り組みを推進しました。
また、流通業セグメントに区分される宿泊特化型ホテル「ヴィアイン」については、ヴィアイン新大阪、ヴィアイン新宿の客室内装リニューアルを実施し、競争力の向上に努めました。
流通業セグメントでは、駅構内店舗や「ヴィアイン」のご利用が好調であったこと等により、営業収益は前期比5.7%増の2,082億円、営業利益は同5.8%増の138億円となりました。
③ 不動産業
不動産業セグメントでは、大阪駅周辺のまちづくり、広島駅新駅ビルの開業等、拠点駅の大規模開発等を通じ、「駅・まち」の魅力を高めるまちづくりを推進しました。
ショッピングセンター運営業では、「イノゲート大阪」飲食ゾーン「バルチカ03」や「うめきたグリーンプレイス」、広島駅新駅ビルの商業施設「minamoa」等を新規開業するとともに、「京都ポルタ」等のリニューアルを行いました。
ホテル業では、「THE OSAKA STATION HOTEL, Autograph Collection」や「ホテルグランヴィア広島サウスゲート」の開業等を通じ、ブランド力の向上に取り組みました。
また、不動産販売・賃貸業では、「イノゲート大阪」でのオフィス事業が稼働を開始したほか、当社グループ初となる米国現地デベロッパーとの協業案件である、米国フロリダ州での集合賃貸住宅の開発等に取り組みました。
不動産業セグメントでは、ショッピングセンターのご利用等が好調に推移し、営業収益は前期比6.8%増の2,326億円となったものの、拠点駅の大規模開発に伴う一時的経費が増加したこと等により、営業利益は同12.5%減の389億円となりました。
④ 旅行・地域ソリューション業
旅行・地域ソリューション業セグメントでは、当社のアプリ内で提供する旅行プラン「tabiwaトラベル」のコンテンツ拡充と販売強化等、デジタルツーリズムの実現に取り組むとともに、地域の社会課題解決のニーズに応えるソリューションの総合提案を推し進めました。
旅行・地域ソリューション業セグメントでは、ワクチン接種関連事業の特需が剥落したこと等により、営業収益は前期比8.4%減の1,887億円、営業利益は同85.5%減の11億円となりました。
モビリティ業のうち、当社の鉄道事業の営業成績は以下のとおりであります。
ア.輸送実績
(注)1 キロ程欄の上段括弧書は、外数で第三種鉄道事業のキロ程であり、それ以外は第一種鉄道事業及び第二種鉄道事業のキロ程であります。また、前事業年度比は、前事業年度末の数値を記載しております。
2 客車走行キロ数には、試運転、営業回送を含めておりません。
3 輸送人キロ欄の近畿圏は、京都府(南部)、大阪府(一部を除く)、兵庫県(南部)、滋賀県、奈良県(一部を除く)及び三重県(一部)について記載しております。
4 乗車効率欄の前事業年度比は、前事業年度の数値を記載しております。
なお、乗車効率は次の方法により算出しております。
イ.収入実績
(注) 旅客収入欄の近畿圏は、京都府(南部)、大阪府(一部を除く)、兵庫県(南部)、滋賀県、奈良県(一部を除く)及び三重県(一部)について記載しております。
(2) 資産、負債及び純資産の状況
当連結会計年度末の総資産額は、3兆7,523億円となり、前連結会計年度末と比較し277億円減少しました。これは主に、現金及び預金の減少によるものです。
負債総額は、2兆4,721億円となり、前連結会計年度末と比較し807億円減少しました。これは主に、借入金の減少によるものです。
純資産総額は、1兆2,801億円となり、前連結会計年度末と比較し530億円増加しました。これは主に、利益剰余金の増加によるものです。
(3) キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ1,078億円減の1,253億円となりました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
税金等調整前当期純利益などにより、営業活動において得た資金は2,814億円(前連結会計年度は3,183億円の収入)となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
固定資産の取得などにより、投資活動において支出した資金は2,631億円(前連結会計年度は2,436億円の支出)となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
借入金の返済などにより、財務活動において支出した資金は1,261億円(前連結会計年度は1,316億円の支出)となりました。
(4) 生産、受注及び販売の実績
当社及びその連結子会社(以下「当社グループ」という。)の大多数は、受注生産形態を取らない業態であります。このため、生産、受注及び販売の状況については、「4[経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析]」における各事業のセグメント別経営成績に関連付けて示しております。
(5) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
文中における将来に関する事項は、当有価証券報告書提出日現在において判断したものであります。
① 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社グループは、基幹事業である鉄道事業において安全性の向上に全力で取り組むとともに、その他のグループ事業においては、各事業の特性を活かしたさまざまな施策の展開及び保有資産の有効活用等に努めてきました。
当連結会計年度においては、北陸新幹線の敦賀延伸や大阪プロジェクト開業、インバウンド需要等により営業収益、営業利益、親会社株主に帰属する当期純利益のいずれも増加しました。
ア.営業収益
営業収益は、前連結会計年度に比べ4.5%、729億円増加の1兆7,079億円となりました。
モビリティ業セグメントについては、当社の運輸収入が北陸新幹線の敦賀延伸やインバウンド需要等により増加し、営業収益は前連結会計年度に比べ6.1%、605億円増加の1兆467億円となりました。
このうち新幹線については、前連結会計年度に比べ13.8%、616億円増加の5,093億円となりました。
在来線については、前連結会計年度に比べ2.4%、95億円減少の3,833億円となりました。
流通業セグメントについては、コンビニエンスストアや土産店、流通業セグメントに区分される宿泊特化型ホテル「ヴィアイン」のご利用が好調であったこと等により、前連結会計年度に比べ5.7%、112億円増加の2,082億円となりました。
不動産業セグメントについては、ショッピングセンター運営業、ホテル業において既存店が好調であったこと及び「イノゲート大阪」飲食ゾーン「バルチカ03」や「大阪ステーションホテル」の開業等により、前連結会計年度に比べ6.8%、147億円増加の2,326億円となりました。
旅行・地域ソリューション業セグメントについては、コロナ関連受託事業が減少したこと等により、前連結会計年度に比べ8.4%、172億円減少の1,887億円となりました。
イ.営業費用
拠点駅の大規模開発に伴う一時的経費の増等により、前連結会計年度に比べ5.0%、725億円増加の1兆5,277億円となりました。
ウ.営業利益
営業利益は、前連結会計年度に比べ0.2%、4億円増加の1,801億円となりました。
エ.営業外損益
営業外損益については、貸倒引当金戻入額の減少等により前連結会計年度に比べ21億円減少し、144億円の損失となりました。
オ.経常利益
経常利益は、前連結会計年度に比べ1.0%、17億円減少の1,656億円となりました。
カ.特別損益
特別損益については、線区整理損失引当金繰入額の減少等により、前連結会計年度に比べ210億円増加し、11億円の損失となりました。
キ.親会社株主に帰属する当期純利益
親会社株主に帰属する当期純利益は、前連結会計年度に比べ15.4%、151億円増加の1,139億円となりました。
② 経営成績に重要な影響を与える要因
ア.収益に影響する要因
[モビリティ業]
モビリティ業セグメントは鉄道運輸収入が大宗を占めております。鉄道運輸収入は、主に鉄道利用者数により左右され、航空機を含めた他の輸送モード、同業他社との競争や、経済情勢、少子高齢化等、多くの要因により影響を受けます。また、鉄道利用者は、安全性、信頼性をベースに、所要時間・ネットワーク性・運賃・快適性を基準として選択を行うと考えております。
新幹線の収入は、主として、ビジネスや観光旅行客の数に左右され、経済環境や航空機との競争、訪日観光客の動向等に影響を受けます。
近畿圏の収入は経済情勢による増減やワークスタイルの変化、少子高齢化や都市化等の人口推移による影響を受けると考えております。
その他在来線のうち、都市間輸送の収入は経済情勢や高速バス、自家用車との競争による影響を受けます。また、ローカル線の収入は自家用車との競争や地域の経済情勢及び人口の推移による影響を受けます。
[流通業]
流通業セグメントの収入は、主に百貨店業、物品販売業及び飲食業からの収入で構成されております。当セグメントの収入は、経済情勢及び他の百貨店、物販店舗、レストランとの競争に左右されます。当セグメントの事業の多くが駅やその周辺で行われているため、鉄道輸送量も影響を受ける要因です。また、新規店舗の開発や既存店舗の廃止によっても左右されます。
[不動産業]
不動産業セグメントの収入は、主に駅やその周辺施設の賃貸収入、沿線におけるマンションの分譲販売、ホテル業により得られます。当セグメントは、経済情勢の影響や、マンション分譲事業の販売数の増減により業績が変動するほか、ホテル業の収益は、宿泊料金や他ホテルとの競争、訪日観光客の動向に影響されます。賃貸事業において、駅は比較的安定したご利用があるものの、賃貸物件の需給状況による影響を受けます。テナントは立地の利便性から駅構内及びその周辺オフィスを好むことから、同業他社に比べ、経済情勢による影響は少ないと考えております。
[旅行・地域ソリューション業]
旅行・地域ソリューション業セグメントの収入は、主に他旅行業者との競争、経済情勢やテロ等旅行を妨げる状況により影響を受けます。また、官公庁や自治体の事業や公務の受託状況により影響を受けます。
イ.費用に影響する要因
[人件費]
当社は、労働力不足が拡大する中、必要な人的資本の安定を図るとともに、構造改革による生産性向上を推進しつつ、新規採用等により事業運営に必要な社員数を確保してきております。当事業年度の人件費は2,075億円となっております。
人財確保については、新卒採用以外にも、社会人採用やカムバック採用など、幅広いチャネルを設定することで、さらに多様性のある人財ポートフォリオへの転換を図ります。当事業年度においては新卒採用及び社会人採用等合計約1,600名の採用を行いました。
また、年齢構成により退職者数が多い中で、一層円滑な技術継承を図ることなどの観点から、従来の定年退職後の再雇用制度に加え、2023年度から65歳以上の再雇用にも取り組んでいます。
[物件費]
当社は、鉄道事業の特徴である、(ⅰ)多くの設備を有し、安全の確保のために必要なメンテナンスに係るコストの比重が大きい、(ⅱ)収益に連動しない「固定費用」の割合が高いなどの事情から、安全性の確保を大前提として、メンテナンスが容易な車両及び設備の導入、機械化、既存のインフラの改良等により、これらの経費を構造的に削減する取り組みを行っております。一方で、労働力不足の拡大を見据え、サプライチェーン全体の持続可能性を高めるための人的資本投資などにより、今後も必要となる費用の増加が想定されます。
また、対抗輸送機関との競争力向上のため、サービスレベルの向上、販売促進のためのIT化、効率化に寄与する外注化等による費用の増加も想定されます。
さらに、電気料金の値上げを始めとした物価高騰等の継続による費用の増加が想定されます。
[支払利息]
営業外費用のうち、重要なものとして支払利息があります。当社グループとしては、経営の安定性を保つために有利子負債残高や支払利息の水準を注視しております。当連結会計年度の当社グループの支払利息については195億円となり、前連結会計年度に比べ5億円減少しております。
③ 流動性と資本の源泉
ア.キャッシュ・フロー
当連結会計年度のキャッシュ・フローの分析については、「第2[事業の状況] 4[経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析] (3) キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。
イ.資本需要と設備投資
当社グループは、当連結会計年度において総額2,842億円の設備投資を実施し、そのうちモビリティ業では1,699億円、流通業、不動産業、旅行・地域ソリューション業及びその他では、43億円、1,052億円、11億円及び34億円をそれぞれ実施しました。モビリティ業に関する設備投資においては、安全性の向上を中心とした鉄道インフラの整備や、老朽車両の更新等を目的とした新型車両の購入を行っております。流通業、不動産業、旅行・地域ソリューション業及びその他における当社グループの設備投資においては、新設備の建設や老朽設備の改築等を行っております。
今後も災害の激甚化を見据えた地震対策や労働人口減少を踏まえた労働生産性向上に向けた設備投資の増大が想定されます。
ウ.資金調達
資金調達については、既存債務の返済資金や設備投資資金・配当等のうち当社グループのフリー・キャッシュ・フローで賄いきれない分の調達を主としており、その調達手段は社債及び銀行等からの長期借入金等、市場動向や金利動向等を総合的に勘案しながら決定しております。
また、短期的に資金を必要とする場合には、主として短期社債やコミットメントライン等で賄うことを基本としております。
なお、コミットメントラインについては、地震が発生した場合でも、あらかじめ定めた条件によって資金調達が可能な契約内容となっております。
エ.流動性
日々の収入金も確保していることから、流動性資金は十分な水準を確保しているものと考えております。
また、資金効率向上はキャッシュ・マネジメント・サービス(CMS)により、グループ内資金の有効活用を図っております。
当連結会計年度においては、インバウンドをはじめとするお客様のご利用が堅調に推移する一方で、労働力不足やインフレ等、当社グループの経営に重大な影響を及ぼす環境の変化がより顕在化してきました。
このような事業環境の中で、当社グループは、2024年4月にアップデートを行った「中期経営計画2025」のもと、「私たちの志」「長期ビジョン」の実現に向けて、北陸新幹線金沢-敦賀間開業の効果最大化、大阪駅、広島駅周辺のまちづくりの推進、WESTER経済圏の拡大や総合インフラマネジメント事業「JCLaaS」の推進等を通じて、地域・社会とのつながりの進化に取り組みました。
また、鉄道の運行や大阪駅周辺施設への再生可能エネルギー由来電力の導入等、地球環境保護に取り組むとともに、社員全員がいきいきと活躍できる職場の実現に向けて、人財戦略の推進や「JR西日本グループ行動規範」の制定等に取り組みました。
その結果、営業収益は前期比4.5%増の1兆7,079億円、営業利益は同0.2%増の1,801億円、経常利益は同1.0%減の1,656億円、法人税等を控除した親会社株主に帰属する当期純利益は同15.4%増の1,139億円となりました。
これをセグメント別に示すと次のとおりとなります。
① モビリティ業
当社グループは、2005年4月25日に福知山線列車事故を発生させたことを踏まえ、引き続き、被害に遭われた方々へ真摯に対応してまいります。また、2023年4月にスタートした「安全考動計画2027」に基づき、「お客様を想い、ご期待にお応えする」ことを強く意識して安全性の向上に取り組むよう、安全に対する向きあい方を深め、組織風土として醸成すること等に取り組んでいます。
当連結会計年度においても、ホーム柵の整備を引き続き進めるとともに、お客様の転落を検知し乗務員や駅係員に知らせるホーム安全スクリーンや、ホームと車両の段差・隙間対策等、ホームの安全対策を進めました。具体的な例としては、大阪・関西万博も念頭に、西九条駅、弁天町駅のすべてのホームでホーム柵の使用を開始し、あわせて同ホームにてホームと車両の段差や隙間を縮小する整備も実施しました。また、桜島駅、ユニバーサルシティ駅等ではホーム安全スクリーンの使用を開始しました。加えて、列車内やホームでの防犯対策として、防刃傘を開発し一部列車の乗務員室に配備しました。
自然災害への対策としては、斜面防災対策や降雨時運転規制へのレーダー雨量活用をはじめとした豪雨対策を引き続き実施しました。山陽新幹線における地震対策については、耐震補強対策及び逸脱防止対策を全線に拡大すべく、主要な対策は2027年度末までの完了をめざし、着実に整備を進めました。在来線における建物・高架橋等の耐震補強等についても、計画に基づき着実に整備を進めました。
鉄道事業の持続的進化に向けては、機会を捉えた需要創出や価値創造、デジタルを活用した新たな価値提供の取り組みを推進するとともに、鉄道DXによる業務プロセスの変革等、鉄道事業の持続的な運営に向けた安全性向上・生産性向上に取り組みました。
・特急「やくも」新型車両の投入(国内初の技術実用化による乗り心地の大幅な改善)(4月)
・有料座席サービスのさらなる展開(乗車後に特急券を購入できるサービスの開始(5月)、「快速 うれしート」、「らくラクはりま」の拡大(10月~))
・山陽新幹線全線開業50周年記念「WESTERポイント超特典きっぷ」等、ポイント利用商品の拡大(5月~)
・「森の芸術祭 晴れの国・岡山」に向けたきっぷや旅行商品の設定、キャンペーンの展開(9月~11月)
・ICOCA定期券にさまざまな特典をプラスしてご利用いただける「ICO+」(イコプラ)の実施(10月~)
・北陸新幹線金沢-敦賀間開業を契機とした北陸デスティネーションキャンペーンの開催(10月~12月)、新たな観光列車「はなあかり」の運行開始(10月)
・広域型 MaaS アプリ「KANSAI MaaS」を活用した関西私鉄各社との連携商品の発売(「KANSAI MaaSワンデーパス」、「大阪スマートアクセスパス」)(1月~)
・2025年大阪・関西万博へのアクセス輸送の整備(弁天町駅・桜島駅改良、「エキスポライナー」の設定)(3月)
・ロボット技術を活用した高所の鉄道設備メンテナンスの安全性向上(多機能鉄道重機の使用開始)(7月)
・新幹線の自動運転導入に向けた取り組み(北陸新幹線は2029年度(12月)、山陽新幹線は2030年代の開始をめざす(9月))
・生成AIを活用した間接部門の業務改革と、現場の個別業務課題への適用
モビリティ業セグメントでは、北陸新幹線の敦賀延伸やインバウンド需要の増加等により、営業収益は前期比6.1%増の1兆467億円、営業利益は同10.7%増の1,225億円となりました。
② 流通業
流通業セグメントでは、スターバックス等、外部との提携店舗の拡充や、立地の特性を活かした店舗展開(「エキマルシェ大阪UMEST」開業等)によりお客様の多様なニーズへの対応力を高めたほか、大阪・関西万博会場内におけるオフィシャルストアの出店準備、地域商品作り等、さらなる成長に向けた取り組みを推進しました。
また、流通業セグメントに区分される宿泊特化型ホテル「ヴィアイン」については、ヴィアイン新大阪、ヴィアイン新宿の客室内装リニューアルを実施し、競争力の向上に努めました。
流通業セグメントでは、駅構内店舗や「ヴィアイン」のご利用が好調であったこと等により、営業収益は前期比5.7%増の2,082億円、営業利益は同5.8%増の138億円となりました。
③ 不動産業
不動産業セグメントでは、大阪駅周辺のまちづくり、広島駅新駅ビルの開業等、拠点駅の大規模開発等を通じ、「駅・まち」の魅力を高めるまちづくりを推進しました。
ショッピングセンター運営業では、「イノゲート大阪」飲食ゾーン「バルチカ03」や「うめきたグリーンプレイス」、広島駅新駅ビルの商業施設「minamoa」等を新規開業するとともに、「京都ポルタ」等のリニューアルを行いました。
ホテル業では、「THE OSAKA STATION HOTEL, Autograph Collection」や「ホテルグランヴィア広島サウスゲート」の開業等を通じ、ブランド力の向上に取り組みました。
また、不動産販売・賃貸業では、「イノゲート大阪」でのオフィス事業が稼働を開始したほか、当社グループ初となる米国現地デベロッパーとの協業案件である、米国フロリダ州での集合賃貸住宅の開発等に取り組みました。
不動産業セグメントでは、ショッピングセンターのご利用等が好調に推移し、営業収益は前期比6.8%増の2,326億円となったものの、拠点駅の大規模開発に伴う一時的経費が増加したこと等により、営業利益は同12.5%減の389億円となりました。
④ 旅行・地域ソリューション業
旅行・地域ソリューション業セグメントでは、当社のアプリ内で提供する旅行プラン「tabiwaトラベル」のコンテンツ拡充と販売強化等、デジタルツーリズムの実現に取り組むとともに、地域の社会課題解決のニーズに応えるソリューションの総合提案を推し進めました。
旅行・地域ソリューション業セグメントでは、ワクチン接種関連事業の特需が剥落したこと等により、営業収益は前期比8.4%減の1,887億円、営業利益は同85.5%減の11億円となりました。
モビリティ業のうち、当社の鉄道事業の営業成績は以下のとおりであります。
ア.輸送実績
区分 | 単位 | 当事業年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) | |||||
前事業年度比 | |||||||
営業日数 | 日 | 365 | - | ||||
キロ程 | 新幹線 | キロ | 937.7 | 937.7 | |||
在来線 | キロ | (28.0) 3,959.8 | (28.0) 3,959.8 | ||||
計 | キロ | (28.0) 4,897.5 | (28.0) 4,897.5 | ||||
客車走行キロ | 新幹線 | 千キロ | 605,254 | 109.4 | % | ||
在来線 | 千キロ | 717,913 | 94.1 | ||||
計 | 千キロ | 1,323,167 | 100.5 | ||||
輸送人員 | 定期 | 千人 | 1,064,231 | 100.1 | |||
定期外 | 千人 | 694,581 | 103.9 | ||||
計 | 千人 | 1,758,812 | 101.6 | ||||
輸 送 人 キ ロ | 新幹線 | 定期 | 千人キロ | 1,035,268 | 112.8 | ||
定期外 | 千人キロ | 20,671,952 | 107.8 | ||||
計 | 千人キロ | 21,707,220 | 108.0 | ||||
在 来 線 | 近 畿 圏 | 定期 | 千人キロ | 16,698,186 | 100.7 | ||
定期外 | 千人キロ | 10,359,699 | 102.9 | ||||
計 | 千人キロ | 27,057,886 | 101.6 | ||||
そ の 他 | 定期 | 千人キロ | 3,300,379 | 94.2 | |||
定期外 | 千人キロ | 2,910,107 | 76.6 | ||||
計 | 千人キロ | 6,210,487 | 85.1 | ||||
計 | 定期 | 千人キロ | 19,998,565 | 99.6 | |||
定期外 | 千人キロ | 13,269,807 | 95.7 | ||||
計 | 千人キロ | 33,268,373 | 98.0 | ||||
合計 | 定期 | 千人キロ | 21,033,834 | 100.2 | |||
定期外 | 千人キロ | 33,941,760 | 102.7 | ||||
計 | 千人キロ | 54,975,594 | 101.7 | ||||
乗車効率 | 新幹線 | % | 46.0 | 46.5 | |||
在来線 | % | 36.9 | 35.5 | ||||
計 | % | 40.1 | 38.9 |
(注)1 キロ程欄の上段括弧書は、外数で第三種鉄道事業のキロ程であり、それ以外は第一種鉄道事業及び第二種鉄道事業のキロ程であります。また、前事業年度比は、前事業年度末の数値を記載しております。
2 客車走行キロ数には、試運転、営業回送を含めておりません。
3 輸送人キロ欄の近畿圏は、京都府(南部)、大阪府(一部を除く)、兵庫県(南部)、滋賀県、奈良県(一部を除く)及び三重県(一部)について記載しております。
4 乗車効率欄の前事業年度比は、前事業年度の数値を記載しております。
なお、乗車効率は次の方法により算出しております。
乗車効率 = | 輸送人キロ |
客車走行キロ × 客車平均定員(標準定員) |
イ.収入実績
区分 | 単位 | 当事業年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) | ||||||
前事業年度比 | ||||||||
旅 客 運 輸 収 入 | 旅 客 収 入 | 新幹線 | 定期 | 百万円 | 13,342 | 114.0 | % | |
定期外 | 百万円 | 496,051 | 113.8 | |||||
計 | 百万円 | 509,394 | 113.8 | |||||
在 来 線 | 近 畿 圏 | 定期 | 百万円 | 107,604 | 101.6 | |||
定期外 | 百万円 | 196,988 | 104.6 | |||||
計 | 百万円 | 304,593 | 103.5 | |||||
そ の 他 | 定期 | 百万円 | 20,465 | 93.3 | ||||
定期外 | 百万円 | 58,242 | 76.0 | |||||
計 | 百万円 | 78,707 | 79.8 | |||||
計 | 定期 | 百万円 | 128,070 | 100.2 | ||||
定期外 | 百万円 | 255,230 | 96.3 | |||||
計 | 百万円 | 383,300 | 97.6 | |||||
合計 | 定期 | 百万円 | 141,413 | 101.4 | ||||
定期外 | 百万円 | 751,282 | 107.2 | |||||
計 | 百万円 | 892,695 | 106.2 | |||||
荷物収入 | 百万円 | 1 | 84.2 | |||||
合計 | 百万円 | 892,696 | 106.2 | |||||
鉄道線路使用料収入 | 百万円 | 4,612 | 97.9 | |||||
運輸雑収 | 百万円 | 69,106 | 103.6 | |||||
収入合計 | 百万円 | 966,416 | 106.0 |
(注) 旅客収入欄の近畿圏は、京都府(南部)、大阪府(一部を除く)、兵庫県(南部)、滋賀県、奈良県(一部を除く)及び三重県(一部)について記載しております。
(2) 資産、負債及び純資産の状況
当連結会計年度末の総資産額は、3兆7,523億円となり、前連結会計年度末と比較し277億円減少しました。これは主に、現金及び預金の減少によるものです。
負債総額は、2兆4,721億円となり、前連結会計年度末と比較し807億円減少しました。これは主に、借入金の減少によるものです。
純資産総額は、1兆2,801億円となり、前連結会計年度末と比較し530億円増加しました。これは主に、利益剰余金の増加によるものです。
(3) キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ1,078億円減の1,253億円となりました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
税金等調整前当期純利益などにより、営業活動において得た資金は2,814億円(前連結会計年度は3,183億円の収入)となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
固定資産の取得などにより、投資活動において支出した資金は2,631億円(前連結会計年度は2,436億円の支出)となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
借入金の返済などにより、財務活動において支出した資金は1,261億円(前連結会計年度は1,316億円の支出)となりました。
(4) 生産、受注及び販売の実績
当社及びその連結子会社(以下「当社グループ」という。)の大多数は、受注生産形態を取らない業態であります。このため、生産、受注及び販売の状況については、「4[経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析]」における各事業のセグメント別経営成績に関連付けて示しております。
(5) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
文中における将来に関する事項は、当有価証券報告書提出日現在において判断したものであります。
① 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社グループは、基幹事業である鉄道事業において安全性の向上に全力で取り組むとともに、その他のグループ事業においては、各事業の特性を活かしたさまざまな施策の展開及び保有資産の有効活用等に努めてきました。
当連結会計年度においては、北陸新幹線の敦賀延伸や大阪プロジェクト開業、インバウンド需要等により営業収益、営業利益、親会社株主に帰属する当期純利益のいずれも増加しました。
ア.営業収益
営業収益は、前連結会計年度に比べ4.5%、729億円増加の1兆7,079億円となりました。
モビリティ業セグメントについては、当社の運輸収入が北陸新幹線の敦賀延伸やインバウンド需要等により増加し、営業収益は前連結会計年度に比べ6.1%、605億円増加の1兆467億円となりました。
このうち新幹線については、前連結会計年度に比べ13.8%、616億円増加の5,093億円となりました。
在来線については、前連結会計年度に比べ2.4%、95億円減少の3,833億円となりました。
流通業セグメントについては、コンビニエンスストアや土産店、流通業セグメントに区分される宿泊特化型ホテル「ヴィアイン」のご利用が好調であったこと等により、前連結会計年度に比べ5.7%、112億円増加の2,082億円となりました。
不動産業セグメントについては、ショッピングセンター運営業、ホテル業において既存店が好調であったこと及び「イノゲート大阪」飲食ゾーン「バルチカ03」や「大阪ステーションホテル」の開業等により、前連結会計年度に比べ6.8%、147億円増加の2,326億円となりました。
旅行・地域ソリューション業セグメントについては、コロナ関連受託事業が減少したこと等により、前連結会計年度に比べ8.4%、172億円減少の1,887億円となりました。
イ.営業費用
拠点駅の大規模開発に伴う一時的経費の増等により、前連結会計年度に比べ5.0%、725億円増加の1兆5,277億円となりました。
ウ.営業利益
営業利益は、前連結会計年度に比べ0.2%、4億円増加の1,801億円となりました。
エ.営業外損益
営業外損益については、貸倒引当金戻入額の減少等により前連結会計年度に比べ21億円減少し、144億円の損失となりました。
オ.経常利益
経常利益は、前連結会計年度に比べ1.0%、17億円減少の1,656億円となりました。
カ.特別損益
特別損益については、線区整理損失引当金繰入額の減少等により、前連結会計年度に比べ210億円増加し、11億円の損失となりました。
キ.親会社株主に帰属する当期純利益
親会社株主に帰属する当期純利益は、前連結会計年度に比べ15.4%、151億円増加の1,139億円となりました。
② 経営成績に重要な影響を与える要因
ア.収益に影響する要因
[モビリティ業]
モビリティ業セグメントは鉄道運輸収入が大宗を占めております。鉄道運輸収入は、主に鉄道利用者数により左右され、航空機を含めた他の輸送モード、同業他社との競争や、経済情勢、少子高齢化等、多くの要因により影響を受けます。また、鉄道利用者は、安全性、信頼性をベースに、所要時間・ネットワーク性・運賃・快適性を基準として選択を行うと考えております。
新幹線の収入は、主として、ビジネスや観光旅行客の数に左右され、経済環境や航空機との競争、訪日観光客の動向等に影響を受けます。
近畿圏の収入は経済情勢による増減やワークスタイルの変化、少子高齢化や都市化等の人口推移による影響を受けると考えております。
その他在来線のうち、都市間輸送の収入は経済情勢や高速バス、自家用車との競争による影響を受けます。また、ローカル線の収入は自家用車との競争や地域の経済情勢及び人口の推移による影響を受けます。
[流通業]
流通業セグメントの収入は、主に百貨店業、物品販売業及び飲食業からの収入で構成されております。当セグメントの収入は、経済情勢及び他の百貨店、物販店舗、レストランとの競争に左右されます。当セグメントの事業の多くが駅やその周辺で行われているため、鉄道輸送量も影響を受ける要因です。また、新規店舗の開発や既存店舗の廃止によっても左右されます。
[不動産業]
不動産業セグメントの収入は、主に駅やその周辺施設の賃貸収入、沿線におけるマンションの分譲販売、ホテル業により得られます。当セグメントは、経済情勢の影響や、マンション分譲事業の販売数の増減により業績が変動するほか、ホテル業の収益は、宿泊料金や他ホテルとの競争、訪日観光客の動向に影響されます。賃貸事業において、駅は比較的安定したご利用があるものの、賃貸物件の需給状況による影響を受けます。テナントは立地の利便性から駅構内及びその周辺オフィスを好むことから、同業他社に比べ、経済情勢による影響は少ないと考えております。
[旅行・地域ソリューション業]
旅行・地域ソリューション業セグメントの収入は、主に他旅行業者との競争、経済情勢やテロ等旅行を妨げる状況により影響を受けます。また、官公庁や自治体の事業や公務の受託状況により影響を受けます。
イ.費用に影響する要因
[人件費]
当社は、労働力不足が拡大する中、必要な人的資本の安定を図るとともに、構造改革による生産性向上を推進しつつ、新規採用等により事業運営に必要な社員数を確保してきております。当事業年度の人件費は2,075億円となっております。
人財確保については、新卒採用以外にも、社会人採用やカムバック採用など、幅広いチャネルを設定することで、さらに多様性のある人財ポートフォリオへの転換を図ります。当事業年度においては新卒採用及び社会人採用等合計約1,600名の採用を行いました。
また、年齢構成により退職者数が多い中で、一層円滑な技術継承を図ることなどの観点から、従来の定年退職後の再雇用制度に加え、2023年度から65歳以上の再雇用にも取り組んでいます。
[物件費]
当社は、鉄道事業の特徴である、(ⅰ)多くの設備を有し、安全の確保のために必要なメンテナンスに係るコストの比重が大きい、(ⅱ)収益に連動しない「固定費用」の割合が高いなどの事情から、安全性の確保を大前提として、メンテナンスが容易な車両及び設備の導入、機械化、既存のインフラの改良等により、これらの経費を構造的に削減する取り組みを行っております。一方で、労働力不足の拡大を見据え、サプライチェーン全体の持続可能性を高めるための人的資本投資などにより、今後も必要となる費用の増加が想定されます。
また、対抗輸送機関との競争力向上のため、サービスレベルの向上、販売促進のためのIT化、効率化に寄与する外注化等による費用の増加も想定されます。
さらに、電気料金の値上げを始めとした物価高騰等の継続による費用の増加が想定されます。
[支払利息]
営業外費用のうち、重要なものとして支払利息があります。当社グループとしては、経営の安定性を保つために有利子負債残高や支払利息の水準を注視しております。当連結会計年度の当社グループの支払利息については195億円となり、前連結会計年度に比べ5億円減少しております。
③ 流動性と資本の源泉
ア.キャッシュ・フロー
当連結会計年度のキャッシュ・フローの分析については、「第2[事業の状況] 4[経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析] (3) キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。
イ.資本需要と設備投資
当社グループは、当連結会計年度において総額2,842億円の設備投資を実施し、そのうちモビリティ業では1,699億円、流通業、不動産業、旅行・地域ソリューション業及びその他では、43億円、1,052億円、11億円及び34億円をそれぞれ実施しました。モビリティ業に関する設備投資においては、安全性の向上を中心とした鉄道インフラの整備や、老朽車両の更新等を目的とした新型車両の購入を行っております。流通業、不動産業、旅行・地域ソリューション業及びその他における当社グループの設備投資においては、新設備の建設や老朽設備の改築等を行っております。
今後も災害の激甚化を見据えた地震対策や労働人口減少を踏まえた労働生産性向上に向けた設備投資の増大が想定されます。
ウ.資金調達
資金調達については、既存債務の返済資金や設備投資資金・配当等のうち当社グループのフリー・キャッシュ・フローで賄いきれない分の調達を主としており、その調達手段は社債及び銀行等からの長期借入金等、市場動向や金利動向等を総合的に勘案しながら決定しております。
また、短期的に資金を必要とする場合には、主として短期社債やコミットメントライン等で賄うことを基本としております。
なお、コミットメントラインについては、地震が発生した場合でも、あらかじめ定めた条件によって資金調達が可能な契約内容となっております。
エ.流動性
日々の収入金も確保していることから、流動性資金は十分な水準を確保しているものと考えております。
また、資金効率向上はキャッシュ・マネジメント・サービス(CMS)により、グループ内資金の有効活用を図っております。