有価証券報告書-第85期(平成29年4月1日-平成30年3月31日)

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2018/06/22 15:10
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(1)経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりです。
①財政状態の状況
当連結会計年度末における総資産は前連結会計年度末と比べ688億円増加の6,717億円、自己資本は、利益剰余金増加等により、466億円増加の3,011億円となり、自己資本比率は44.8%となりました。
流動資産は、受取手形及び売掛金、たな卸資産、現金及び預金の増加等により、前連結会計年度末と比べ302億円増加の4,099億円となりました。
固定資産は、機械装置及び運搬具、工具器具備品及び金型、無形固定資産及び投資有価証券の増加等により、前連結会計年度末と比べ386億円増加の2,618億円となりました。
流動負債は、未払費用、賞与引当金、製品保証引当金の増加と、支払手形及び買掛金、短期借入金の減少等により、前連結会計年度末と比べ96億円増加の1,977億円となりました。
固定負債は、長期借入金の増加と、退職給付に係る負債の減少等により、前連結会計年度末と比べ44億円増加の581億円となりました。
②経営成績の状況
当連結会計年度における世界経済は、米国では、企業業績や雇用環境が順調さを維持し、個人消費も拡大が続きました。欧州では、ユーロ圏で失業率の低下や輸出増加に伴う企業の設備投資は堅調に、英国でも個人消費が緩やかな回復基調になり、好調さを持続しました。また中国では、公共投資の下支えのもと、輸出の好調などから景気は安定的に推移しました。日本経済は、堅調な企業収益や雇用環境の改善などにより、景気は緩やかな回復を続けています。
セグメントごとの経営成績は次のとおりです。
[電子部品事業]
エレクトロニクス業界においては、自動車向け市場でCASE(Connected、Autonomous、Shared & Services、Electric)への開発活動が活発化し、電装化ニーズが更に高まりました。モバイル市場のスマートフォンでは過去数年継続してきた高い成長は減速したものの、大きな市場として存在感を維持しています。ゲーム機向けはVR搭載製品が伸長し、IoT(Internet of Things)市場は、各国で政府主導による活用の動きが活発化しています。
この中で電子部品事業では、第8次中期経営計画の2年目を迎え、車載市場では操作入力用モジュール製品や通信用高周波製品等が全般にわたり堅調でした。民生その他市場では、スマートフォン向け各種製品が期初より高水準で推移し、期末の減少傾向はあったものの、通期で業績を牽引しました。ゲーム機向け製品も順調に伸び、EHII(Energy、Healthcare、Industry、IoT)向けは、IoTをはじめとした様々な市場に向け、具体的な提案活動を進めました。以上に加え、為替が年間を通じて期初想定より円安に推移したこともあり、業績は着実に拡大しました。
(車載市場)
電子部品事業における車載市場では、自動運転車の開発に伴い自動車の電子化の動きが更に加速する中で、電子シフターやドアモジュールなどのモジュール製品、Bluetooth®、W-LAN、LTEなどの通信用高周波製品及びセンサをはじめとした各種車載デバイス製品など、全般にわたって堅調に推移しました。
当連結会計年度における当市場の売上高は2,832億円(前期比10.6%増)となりました。
(民生その他市場)
電子部品事業における民生その他市場では、モバイル市場において、期初よりカメラ用アクチュエータが高水準を維持し、一部地域向けで期末に減速傾向となりましたが、通期では昨年を上回る伸びを示し、スイッチなどコンポーネント製品も順調に推移しました。ハプティック®は、ゲーム機市場の活況を受けて好調を持続するとともに、さまざまな市場への展開にも取り組みました。EHIIでは、大手重電企業や電力会社とのエネルギーに関する取り組みが進展し、IoTでは、さまざまな業界に向けて子会社アルプス システム インテグレーション(株)と共同で、ニーズの把握と新規需要の掘り起こしを進めました。
当連結会計年度における当市場の売上高は2,308億円(前期比27.1%増)となりました。
以上の結果、当連結会計年度の電子部品事業の売上高は5,140億円(前期比17.4%増)、営業利益は529億円(前期比61.4%増)となりました。
[車載情報機器事業]
カーエレクトロニクス業界は、自動車の電子化が加速する中、インフォテインメントシステムを核とした車載情報分野と、自動運転やAI(人工知能)など新分野との連携が拡大し、業種・業態を超えた競争が激化しました。
このような中、車載情報機器事業(アルパイン(株)・東証一部)では、2017年4月から3カ年の「第14次中期経営計画」を策定しました。この計画に基づき、国内技術開発子会社を吸収合併して技術開発力を強化するとともに、期初に統合した国内製造子会社3社の生産性向上を図るなど、グループ再編による構造改革を推進し、より強固な事業基盤の構築に努めました。また、ソフトウェアの性能や品質向上のため(株)シーズ・ラボとの資本及び業務提携の強化を行い子会社化し、コニカミノルタ(株)が開発した3D AR(拡張現実)技術を活用したHUD(ヘッドアップディスプレイ)の量産化を目指し、同社との共同開発を開始しました。更に、新規ビジネスとして「アルパインスタイル・カスタマイズカー」の販売を開始しました。以上に加え、国内市販市場向けアルパインブランドの車種専用製品や、中国市場における欧州自動車メーカー向け純正品の売上が伸長する中、為替が期初の想定よりも円安に推移したことから、当初の予想を上回る業績となりました。
以上の結果、当連結会計年度の車載情報機器事業の売上高は2,676億円(前期比10.5%増)、営業利益は137億円(前期比144.2%増)となりました。
[物流事業]
物流事業の主要顧客である電子部品業界において、年明け以降、スマートフォン向けの需要の減速感が見られたものの、全体を通しては車載関連やスマートフォン向けの生産増加によって好調に推移しました。
このような需要動向のもと、物流事業((株)アルプス物流・東証二部)では、グローバルに拠点・倉庫・ネットワークの拡充や、新市場の顧客開拓と受託エリアの拡大に向けた営業活動を行い、取扱貨物量の拡大を図るとともに、運送・保管・輸出入各事業それぞれの生産性向上に取り組みました。国内では、千葉県船橋市に倉庫を開設し、今後の輸出入事業の拡大に対応していきます。また、埼玉県加須市に2018年5月竣工予定の大型倉庫建設に着工しました。海外では、香港での事業拡大に伴う倉庫の再編による保管能力の拡張を図り、更に、中国・重慶では重慶支店を開設、ベトナム・ハノイに現地法人、インド・デリー近郊のグルグラムに現地法人を設立しました。北米では米国テキサス州ダラスに営業事務所、メキシコでは2社目の現地法人を設立しました。
以上の結果、当連結会計年度の物流事業の売上高は646億円(前期比5.7%増)、営業利益は49億円(前期比3.0%減)となりました。
以上により、上記の3事業セグメントにその他を加えた当連結会計年度の当社グループにおける連結業績は、売上高8,583億円(前期比13.9%増)、営業利益719億円(前期比62.0%増)、経常利益667億円(前期比56.2%増)、親会社株主に帰属する当期純利益473億円(前期比35.7%増)となりました。
③キャッシュ・フローの状況
現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、前連結会計年度末と比べ27億円増加し、当連結会計年度末の残高は、1,207億円となりました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度末における営業活動による資金の増加は、703億円(前期は416億円の増加)となりました。
この増加は、主に電子部品事業及び車載情報機器事業において営業利益が過去最高を更新したことによるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度末における投資活動による資金の減少は、667億円(前期は379億円の減少)となりました。
この減少は、将来の利益創出のため主にスマートフォン向け製品の規模拡大を図るために積極的に設備投資を行ったことによるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度末における財務活動による資金の減少は、29億円(前期は3億円の減少)となりました。
この減少は、主に配当金の支払額62億円、短期借入金の純増減額27億円及び非支配株主への配当金の支払額20億円による資金の減少と、長期借入れによる収入106億円による資金の増加によるものです。
④生産、受注及び販売の実績
a. 生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
セグメントの名称金額(百万円)前連結会計年度比(%)
電子部品事業527,5196.3
車載情報機器事業227,4555.5
物流事業--
合計754,9756.1

(注)1. セグメント間取引については、相殺消去しています。
2. 金額は、販売価格によっています。
3. 上記の金額には、消費税等は含まれていません。
b. 受注実績
当連結会計年度における受注状況をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
セグメントの名称受注高(百万円)前連結会計年度比(%)受注残高(百万円)前連結会計年度比(%)
電子部品事業517,99515.246,4479.3
車載情報機器事業272,91815.623,33729.2
物流事業----
合計790,91415.369,78515.3

(注)1. セグメント間取引については、相殺消去しています。
2. 上記の金額には、消費税等は含まれていません。
c. 販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
セグメントの名称金額(百万円)前連結会計年度比(%)
電子部品事業514,03117.4
車載情報機器事業267,63810.5
物流事業64,6665.7
報告セグメント計846,33614.2
その他11,981△1.2
合計858,31713.9

(注)1. セグメント間取引については、相殺消去しています。
2. 上記の金額には、消費税等は含まれていません。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
①重要な会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成されています。
この連結財務諸表の作成に際し、連結決算日における資産・負債の数値及び連結会計年度の収益・費用の数値に影響を与える会計上の見積りを用いています。この会計上の見積りは、過去の実績や状況に応じ合理的と考えられる様々な要因に基づき行っています。実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。
当社は、特に以下の会計上の見積りが、当社グループの連結財務諸表に重要な影響を与えるものと考えています。
a. たな卸資産及び有価証券の評価
たな卸資産及び時価のない有価証券は主に原価法を、時価のある有価証券は時価法を採用しています。
有価証券は、その価値の下落が原則30%以上の場合は、評価損を計上しています。
たな卸資産では顧客の将来需要の減少等に伴う陳腐化、有価証券では将来の景気変動等によって投資先が業績不振になった場合、評価損の計上が必要となる可能性があります。
b. 繰延税金資産
繰延税金資産については、回収可能性があると判断できる金額のみ計上しています。繰延税金資産の回収可能性を判断するに当たっては、将来の課税所得等を考慮しています。
すでに計上されている繰延税金資産の全部又は一部を将来回収できないと判断した場合、当該判断を行った期間に繰延税金資産を取崩し、税金費用として計上することになります。逆に回収可能性がないとして未計上であった繰延税金資産が回収可能になったと判断した場合、当該判断を行った期間に繰延税金資産を計上し、税金費用を減少させることになります。
c. 退職給付に係る負債
従業員の退職給付に備えるため、当社グループは連結会計年度末における退職給付債務及び年金資産の見込額に基づき、退職給付費用及び退職給付に係る負債の計上を行っています。退職給付費用及び退職給付債務は、数理計算上で設定される前提条件や年金資産の期待運用収益率等に基づいて算出されています。この前提条件には割引率、退職率、死亡率、脱退率、昇給率が含まれています。
この前提条件の変更等があった場合には、将来期間における退職給付費用及び退職給付債務に影響を及ぼすことがあります。
d. 固定資産の減損
当社グループの保有する固定資産については、「固定資産の減損に係る会計基準」に基づき、減損処理の要否を検討しています。
事業用資産は、事業環境の悪化等により、これらの製品を製造する資産グループの帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失としています。
遊休資産、賃貸資産及び処分予定資産は、時価の下落など資産価値が下落しているものや今後の使用見込みがないものについて、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失としています。
②当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
当連結会計年度の当社グループにおける連結業績は、売上高8,583億円(前期比13.9%増)、営業利益719億円(前期比62.0%増)、経常利益667億円(前期比56.2%増)、親会社株主に帰属する当期純利益473億円(前期比35.7%増)となりました。
増収増益の主な要因は、前連結会計年度に比べ、米ドル及びユーロともに円安が進行したことによる為替影響や為替影響を除く売上高も増加し、売上高・営業利益ともに通期ベースで過去最高を更新したことによるものです。
今後については、当社グループでは「持続的成長が可能な会社」を目指す電子部品事業を中心に、次期ビジネスの確固たる基盤確立に注力する車載情報機器事業、グローバルネットワークの拡充により拡大を目指す物流事業がそれぞれ力を発揮するとともに、2019年1月の事業持株会社による新事業体制に向け、企業価値の向上を図っていきます。
なお各セグメントの状況については以下のとおりです。
[電子部品事業]
当連結会計年度は、「GT510」(売上高5,000億円、営業利益率10%)を経営指標としていましたが、実績は、売上高は5,140億円、営業利益率10.3%とその目標を達成しました。その要因としては、車載市場が着実に売上拡大(前期比10.6%増)し、かつ民生その他市場においては、大幅に売上増加(前期比27.1%増)したことにより、売上高・営業利益ともに過去最高を更新したことによるものです。
今後については、車載市場では、モジュール製品での一層の収益改善を進めるとともに、モバイル市場においても、スマートフォン市場のコモディティ化に対して既存設備のフル活用による一層の収益向上に努めます。これら車載市場とモバイル市場での「収益の両輪化」を更に追求する一方、自動車業界での革新的なCASEでの製品開発により重点を置き、次期ビジネスの確保に向けた取り組みに拍車をかけます。EHII市場向け事業では、当社グループ一体となった提案活動の継続と他社との協業により、事業基盤の早期確立に努めます。また、国内外での生産体制の拡充、及び生産性の向上に向けた各種取り組みを進めていきます。
[車載情報機器事業]
当連結会計年度は、営業利益率5%超(セグメント間の内部取引を含む。)を経営指標としていましたが、実績は営業利益率5.0%となりました。その要因としては、国内市販市場向けアルパインブラインドの車種専用製品の売上が堅調に推移し、また中国市場における欧州自動車メーカー向け純製品の売上が伸長する中、為替が円安で推移したことによる増収増益に加え、研究開発費の効率化を図るなど固定費を削減したことによるものです。
今後については、自動車産業の新たなトレンドであるCASEに対応するため、当社とアルパイン(株)との経営統合計画を推進します。当社が有するセンシングデバイスや通信デバイス技術とアルパイン(株)のソフトウェア技術を融合し、ドライバーや同乗者に感動の移動空間と時間を提供するPremium HMIの開発に取組み、車載情報システムのトータルソリューションを提供していきます。
[物流事業]
当連結会計年度は、売上高1,000億円(セグメント間の内部取引を含む。)を経営指標としていましたが、実績は売上高1,049億円とその目標を達成しました。また、電子部品関連の事業では、外販比率と海外売上比率(セグメント間の内部取引を含む。)の向上に取り組み、外販比率が前期比1.4ポイント上昇の49.9%に、海外売上比率が前期比1.2ポイント上昇の37.5%にそれぞれ上昇しました。その要因としては、グローバルでの拠点・ネットワークの拡大と、新規・深耕の拡販営業を推進したことによるものです。
今後については、主要顧客が属する電子部品業界は、さまざまな機器や自動車の電子化の進展、そして新興国需要の拡大によって、成長が予想されます。一方で、顧客の物流改革ニーズは高度化かつ多様化しており、Next Actions「高度化する物流QCDSに挑戦」との事業方針のもと、「新領域への挑戦」、「現場革・進と基盤強化」、「競争優位性の拡大」に取り組み、グローバルに業容の拡大を図っていきます。

③資本の財源及び資金の流動性についての分析
当社グループにおいては、新製品対応、顧客に満足される品質の確保、原価低減等を目的として、生産設備の更新や合理化など設備投資を行いました。
電子部品事業については、生産体制の強化に向けた工場の新設や国内外の各事業拠点において、新製品の増産対応や合理化などを目的とした主にコンポーネント製品の機械設備や金型等に、総額612億円(前期比241億円増)の投資を行いました。
車載情報機器事業については、新製品の開発・生産革新の推進・品質の向上等を目的として、将来の成長に備え、自動車メーカー向け大型プロジェクトに対応した金型や機械設備に、総額86億円(前期比6億円増)の投資を行いました。
物流事業については、事業規模の拡大、顧客サービスの向上等を目的とした物流インフラ強化のための設備投資として、土地の取得を含めた倉庫建設、車両の購入、情報システム構築等、総額56億円(前期比35億円増)の投資を行いました。
以上の結果、その他子会社での投資及び連結消去を含む当連結会計年度の当社グループにおける設備投資の総額は、761億円(前期比284億円増)となりました。
当社グループにおける運転資金及び設備投資資金については、主に営業活動によるキャッシュ・フローにて調達しています。当連結会計年度末の借入金残高は704億円(前期比71億円増)となり、運転資金安定のための短期借入金が368億円(前期比6億円減)、将来の事業基盤確立に向けた研究開発や設備投資資金の確保などのための長期借入金が336億円(前期比77億円増)となりました。
今後の重要な設備投資としては、電子部品事業は当社を中心に生産体制強化を図るための工場の新設や主にコンポーネント製品の生産設備への投資を行う予定です。
車載情報機器事業は、新製品の研究開発・生産設備の更新や合理化のため、アルパイン(株)及びその主要な海外拠点で投資を行う予定です。
物流事業は、国内外における倉庫建設を中心とした拠点・ネットワーク投資を行う予定です。
なお、当社グループにおける運転資金及び設備投資資金については、主に営業活動によるキャッシュ・フローにて調達する予定です。